一日遅れのホワイトデー。
新居となる物件が決まると、私は引っ越しの見積もりを二件取った。
一社の方は日程が混んでいて、こちらで日にちを決めさせてくれたら値引きする、今日決めてくれたらさらに値引きする、お米2kgもつけるなどと言われて、こういうのに弱い私はその会社にお願いすることにした。
詳しくは忘れたけど、トラック共用で二件の引っ越しをいっぺんにやるようなことだった気がする。
そして、前の引っ越しが押したら私の所の作業開始が予定より遅れることもあるけれど、それを了承するということでの値引きらしかった。
かなり遅れる可能性の方が大きい、と思っておいてくださいと言われる。
これがダメだった。
引っ越し荷造りなんていう面倒で大掛かりなことは、ただでさえお尻に火がつかないとできないのに、その魔法の言葉で1時間くらいの余裕ができた気になってしまった。
それで当日は、その1時間があったとしても段ボールに詰め切れないくらいの作業量が予定時間が近づいても残っていた。
しかも、彼らは遅れるどころか、時間よりやや早めにやってきたのだった。
私が半ベソで「遅れるって言われたので、まだできてません」とパニックしていると、責任者らしき人が「いっしょにやりましょう」とやさしく言ってくれて、一斉に箱詰めに取り掛かってくれた。
そして、これは私のせいではないと思うのだけど、見積もりの時に確認した量より荷物が多かったらしく、たまたまトラックの振り分けの関係で予定より大きなトン数のトラックで来ることになったからよかったものの、見積もり通りの大きさだったら詰めなかったと不満そうに言われた。
作業時間はもちろん大幅に押したけれど、なんとかトラックを見送った。翌日の午前に搬入予定だ。
一方、私の方は、作業が押したせいで退居・引き渡しの立ち合いも遅れ、鍵も返せない始末。掃除も済んでないし、自分で持参する荷物の整理もできてなかったから。
もうとっくに日は沈んで、外は真っ暗。
管理会社が帰ると、私はカーテンもない部屋で掃除をした。困ったことに、掃除機を積み残すことになったので、これを自分で運ばなければならない。。。
私は予定通りに行かないとわかった時点でJRをキャンセルし、夫にメールで「今夜のうちにそちらに行けないことになった」と伝えた。
夫は驚いたようだったけど、事情がわかると「明日気をつけて」と返事をよこした。
すべて終わるとタクシーを呼んで、身の回りの荷物と掃除機を持って母のところへ行き、一泊した。
その日はちょうどホワイトデーだった。
夜のうちに夫の住む街へ行って、お菓子をもらっていっしょに過ごせるはずだったのに。
翌朝早く、掃除機入りの紙袋を持った私は、JRで新しく住む街へと向かった。
ゆうべなら、夫に車で迎えに来てもらえたのだけど、この日は駅から新居までまたタクシーということになった。
その後、一人で搬入の立ち合いをして電話工事を待っていると、仕事の途中の夫が顔を出してくれた。
「はい、これ。一日遅れちゃったけど」と、高級そうなお菓子の包みを手渡してくれる。
繰り返して言うと、夫はイベントごとは嫌いな人。
でも、こうして私に合わせて、喜びそうなことをしてくれるのがうれしかった。
その日の夜から、新居での同居生活がスタート。
夫は仕事があるので、運び込んだ家具はおおかた私が計画通りに配置した。
夫の方の荷物は、まずは身の回りの最低限のものから少しずつ運び込んでいった。
私がベッド、夫は布団。
最初はそんな変則的なスタイルだったけど、これからずっと同じ部屋で並んで寝られるんだってことを幸せに思った。
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