おうちデートのハプニング。
夫の異動の話は、一月の末になしになっていた。
ということは、結婚後に最低でも二年、夫の当時の居住地に住むことになる。
私にとって、あまり馴染みのない所だったけど、「好きな人の元へ行く」と考えれば、どこでもいいとその時は思った。
結局、今でもそこに住んでいる。
久しぶりに会う友だちなどに、「どう? 慣れた?」って時々訊かれる。
そこで私は、う〜んと正直にうなり、「慣れてはいる。けど、馴染んではいない」と答える。(最初に言った時、自分ながらに「うまい!」と思った 笑)
ここは、ものすごい田舎でもない代わりに、都会かと言われたら「・・・」な感じ。
大自然の中で暮らす、くらいの思い切った大転換とも言えないような場所で、今までだったらこんなことができたのに……と、ちょっと物足りないところばかりが目についてしまう。
何もかも中途半端な感じの、典型的な(?)地方都市です。
引っ越してきてわりと日が浅いころ、たまたまこの地にいる夫の親の知り合いに誘われて、地域の〇〇教室に参加したことがあったけど、あまりに浮いている自分に気づいて、こりゃダメだとなった。
興味本位のおじさんばかりが話しかけてきて、女の人たちからは何となく遠巻きにされてる感じがした。
私も初対面でガンガン向かっていけるタチじゃないので、ちょっとした作業の時に軽く感想っぽいことを口に出してみるくらいしかできなかったけど、誰も応えてくれなかった。
土地柄という点で唯一よかったのは、車がないと生活が不便ってこと。
だから、私には一生縁がないと思っていた(いや、私なんかが取っちゃいけないと思っていた)運転免許を取ることになった。羽目になったと言ってもいいかもしれないけど。
ご想像どおり、取るのも大変だったし、取ってからも大変だったけど、今は取ってよかったと思えるくらいには運転を楽しんでいる。
話を戻して。
ここに住むと決まったら、夫がいま住んでる家にそのまま私が引っ越して来るか、それとも新しい賃貸物件を探すか、どっちにする? ってことになった。
とりあえず、私が夫の住まいにお邪魔して、雰囲気を見て決めようということで、二月の頭に夫の誕生日祝いも兼ねて、初めてそこへ行った。
賃貸の古い二階建ての一軒家。
外階段がついてて、二階にも玄関があって、別の家族が住んでる。
上階の生活音と会話が筒抜け。
たとえば、上で洗濯機を回してる時の音は、自分の部屋の洗濯機の音かと思うくらいだった。
そして、古いせいかすごく寒い。
ムリだ〜! と、口には出さずに思った。
さらに決定的なこととして、たぶん私の荷物が入らないくらい狭い。
なので、狭いこと(だけ)を理由にして、ほかの物件を探すってことにしてもらった。
そして、夫の住まいを見に行ったことが、実質的には初めての夫宅でのおうちデート、ということになる。
着いたその日は、スーパーでお肉を買ってきて、ホットプレートで焼いて食べることに。
夫の誕生祝いということで、小さいケーキも買った。
食後に、私は用意してきたプレゼント(靴下)を渡した。
その前に、なんでこのタイミング? と思うことがあった。
スーパーから帰ってストーブのスイッチを入れたのだけど、全然火がつかない。
灯油がなくなったから、今日、業者さんに入れてもらったばかりなんだけど……と首をひねる夫。
故障かもしれないから、明日修理を呼ぼうということになり、電気ストーブでしのぐ羽目に。
そのあとお風呂を借りると、温度調節が難しい古い給湯器から出るシャワーも、浴槽のお湯もちょっとぬるめか熱めか。ちょうどよくならないので、ぬるめで妥協する。
パジャマに着替えた私は電気ストーブにひっついて、床が冷たいので食卓のスツールの上に体育座りして、夫とおしゃべりした。
夫は、自分の持ってるDVDを見せてくれたりもした。
そのあと、氷の上かと思うような冷んやりした和室に、二つ布団を並べて寝た。
夫は、畳が冷たいうえに寝相も悪くて、しょっちゅう風邪を引くから電気敷布を使ってるんだと言ってたんだけど、私の分も新しく買って用意してくれていて、私は電気の暖かさと夫のぬくもりの中で眠った。
初めての夫宅は、いろいろ不都合はあったけど、そんなことも楽しいと思えるほど私は幸せだった。
ちなみに翌日、夫が出勤した留守に来た修理の人によると、ストーブは故障してなくて、点火状態で灯油を使い切ってしまったためにパイプに空気が入ったせいとのこと。すぐに直った。
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