行動変容。

それにしても。


ほんの一週間離れるだけなのに「元気で」だなんて、本来ならちょっと可笑しい。

なのに、可笑しがるどころか、宇宙の果てまで飛んでいってしばらく還ってこないなど、私も本当にどうかしている。


夫と私のは、かくも新鮮で、驚きに満ちて、世の摂理を越えていた。


夫自身も、自分史上最高にどうかしていたって、今なら思うだろう。

結婚を決めてからの、信じられないくらいマメで饒舌すぎるメール、自分から異性の手を握ること、ハグと(ライトな)キス、そして指輪をはめること(ついでに、笑顔で写真に写ること)。


どれも全然、夫らしくない。

でもだからこそ、そんなふうに一生懸命にしてくれたことが貴重でうれしいことだったと思える。


以前、夫がこう言ったことがあった。


「性格は変えられないけど、行動なら変えられる」


結婚前後の奇跡みたいなあれこれも、そういうことだったのかな。

あのころ、私のためにいろんな行動をしてくれたこと、本当にありがとう。

夫という人の、もしかしたら一回こっきりかもしれない行動変容。

それを受け取れたのが私だったことは、このうえなく光栄でした。


そして今、こうやって振り返っていて、突然私は気づく。

まだ付き合ってるのかさえわからず、諦めることも視野に入りかけていたころ、

あの演奏会の翌日に、帰る私に車の中から手を振ってくれたこと。


あれも、夫の行動変容の一つだった……とか!?


あの時すでに、始まっていたの? 私が知らなかっただけで。。。


そう思うと、じんわりと胸があったかくなる。

本当に、諦めなくてよかった。


ちなみに、結婚後は徐々に本来の夫に戻った、と思う。

それでもなお、他人と共同生活をするということで、

こちらに合わせてくれてる部分が多々あることもわかってる。

それは私も同じ。

お互いに自分(の行動)をちょっとだけ変える。

それくらいのバランスでちょうどいいのであり、

どっちかが過度に無理してもダメだし、あまりに自分本位でいてもダメなのだ。


そういう意味で、多少なりとも夫が本来の姿に戻ったことは、

むしろ歓迎すべきことと私は思ってた。

家ではくつろいでほしいし、自分らしくいてほしい。

たとえ、そのせいでギクシャクすることがあったとしても、

つど話し合って解決する自信もある。

今のところ、私たちの相性は、そうできるくらいには良いと確信できてる。



話を戻して、お正月。

私たちは夫の両親のもとへあいさつに行った。

夫の兄弟も、そのお嫁さんも、誰もかれも本当にいい人たちで、私はラッキーだった。

事前に私が、皆さんから気に入られなかったらどうしようと心配していたら、

夫は自分の家族が見くびられたかのようにちょっと怒ったりしていたものだけど、

本当にそんな心配は杞憂だった。

少なくとも、私をどう思っていようと、それを表に出すような人たちではない。


お義母さんが用意してくれたおせちを囲んだ団らんは、本当に楽しかった。



一方、帰省先のホテルで、私たちは文字通りの初夜を迎えることに。


夫の実家からホテルの部屋に戻ってしばらくすると、明らかにヘンな間があるような感じがした。

お互いに相手の出方をうかがってるようでいて、ただ単に手持ち無沙汰でどうしていいかわからないだけのようでもあり、何かを照れているのか、あるいは何かを期待しながら躊躇してるかのようでもあり。


私は、その夜が初夜だと思っていた。名実ともに。

でも、夫がどう思ってるかはわからなかった。

ホテルがツインでよかったかと訊かれはしたけど、

それ以上の意味はないかもしれなくて、

同居スタートが初夜と思ってる可能性もある。


「ちょっと疲れた?」

そう言って、私は夫のそばに寄って、マッサージしてあげようか? 私けっこううまいって褒められるんだ、と付け加えた。


夫はためらいながらも、次の瞬間にはいきなり、絵に描いたようにとベッドの上にうつ伏せに倒れた。

緊張でガチガチだったのかもしれない。

その、あまりに頼りない体勢で無防備にうつ伏せてる姿を見て、

ラピュタの巨神兵を思い出した。

ガタイはいいのだ。それが壊れてしまったみたいに、バタリと倒れている。

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