裏切り!?

「相変わらず、たまきさんが何にそんなに幸せを感じているのかは、

よくわかりませんけど、悪いことではないですね。


ただ、私はこのところ、たまきさんが何らかの虚像を描いてるのでは?

と心配しています。

つまり、私に対する勘違い、というか。


あまりにも実像とギャップがあるようだったら、

同居したらガッカリだったという結果にならなければいいですけど」


これは、ある日の夫のメール。


私はそもそも「変わり者」っぽいプロフィールに惹かれたのだから、

何らかのギャップがあったとしても、ちょっとやそっとじゃガッカリしない。

初めて会ったあと、素っ気なくされてもずっと好きだったのだから、

簡単に気持ちが変わるとも思えない。

私としては、やっと山を越えてここに辿り着けたんだってことで、

その分、幸せの感じ方も人一倍大きいんじゃないかと思う、と返した。


すると、夫はまたしても想定外のことを書いてきた。


「私なんかに興味を持つ時点で、たまきさんも相当変わり者と言えるかもしれませんね」


うん、否定はしない。

友だちにも、クセのある人が好きだよねってよく言われる。


でも、夫のこと、変わり者だから好きになったの? って訊かれたら、どうだろう??

それだけだったら、こんなに好きになってないと思う。

最初はもちろん、見た目やプロフィールから入ったわけだけど、

会ってみて、向かい合っていても違和感がなくて、

何かがしっくり来たんだろうと思う。

滅多に笑わないって言ってたけど、笑った顔がかわいかったし、

何があったわけじゃないけど、なんとなく安心感もあったし。


そんなことを返信に書きながら、最後にこう書いた。

「プロフィールが変わってるなぁって思ったのは確かだけど、

実際に話してみると、いい意味で意外に普通で、

しかも、とてもしっかりしている人だという、思いがけない一面もあって、

ますます好きだなぁと思いました」


この「意外に普通」というのが、まさか、さらに夫を不安にさせるとは。。。


「変わり者だと期待をさせて、実は普通だったとなると、

になりませんか?」


え、そんなに自分に自信がないの?


そのへんからだったかな。

私は、夫のいいと思える部分は積極的に口に出して言うようにした。

どんなに好きかも、臆面もなくストレートに伝える。

私が今まで付き合ったどの人よりも夫が一番いいと思っていて、

その中の誰と結婚したとしても、ここまで幸せを感じなかっただろうってことなんかも、コトあるごとに言うようになった。


本当に私はそのことを伝えたかった、というか、

なによりも、口に出して自分で噛みしめること自体が幸せだったし、

もし、それを聞いて夫が自信を持ってくれるなら、さらにいいことだと思ったのだ。


この時のメールのやり取りでは、


「まあ、自分のことを『普通』と言ってる人ほど、

実は自分基準に固執してる人なのかもしれないし、

逆に、特別に変わり者じゃないのに『変わり者』と自称してる人も、

もしかすると単なる目立ちたがり屋だったりするのかもしれないし。


結局、自分では自分のことはよくわからないものですよね」


という夫の結論が出たところで、この話題はめでたく幕引きとなった。



一歩一歩だ。

女性とまともに付き合ったことがほとんどないって言うのだから、

いろいろ初めてのことばかりなんだろう。

もちろん、私だって、結婚の実際については初めてだけど。


この一歩一歩が本当に面白くて、楽しくて、

一つ一つクリアしながら前に進む感じは、まるで中学生の初恋みたいだった。

(結局は失敗続きだったということになる)これまでの恋愛にはなかった新鮮なワクドキに満ちていた。

自分が再びそんな感覚に陥るなんて、信じられなかった。

夫の「初めての」挑戦に、まるでこっちも付き合わされてるような。

いや、付き合わされてるどころか、共鳴するように同じ感覚になっている。

私まで、初恋みたいにいちいちときめいたり、焦ったり、

一生懸命に、ていねいに相手に対処したりして。


そして、伝わった、つながった、わかりあった、共感できた、という

その時々のホッとした幸福感。


こんな、長い長い糸を撚り合わせていくみたいな道のり、

今までの恋愛で感じたことあったかな??

っていうか、結婚を決めてから関係を一から構築していくなんて、

昔のお見合いみたい!?


なにより、そんな形の恋愛にこの自分が身を置くことがあるなんて。


いろんな意味で、(夫との)「結婚」は想像を超えていた。

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