「自己開示」。
あの日、帰ってきてからSNSを見なかったら?
見ても、何も感じなかったら?
感じても、「今」電話しなきゃって思わなかったら?
電話しても、夫が出なかったら?
そして、1週間後に保険の人の部屋に行って、深い関係になっていたら……。
きっと私の今の幸せはなかっただろう。
振り返ってみるたびゾッとするとともに、運命の導きの不思議を何度も噛みしめる。
何年経っても、夫を見ると新鮮な気持ちで「この人、私の旦那さんになってくれたんだなぁ」ってしみじみうれしく思える。
結婚後に親戚回りをした時に、従姉妹が言った。
「ちゃんと、赤い糸がつながっていたんだね」
だとしたら、あの電話の夜、誰かが私の小指の糸をクイクイと引っ張ったんだろう。
そんな気がしてならない。
引っ張ったのは、もしかしたら夫だったのかな。
実は夫にもやって来ていた「遅ればせのモテ期」の中で、もがいて悩んで、
夫は私という選択をしてくれたのだ。
それを彼の潜在意識が、私が諦めてあっちに行ってしまう前に何とか伝えようとしてくれたということかもしれない。
それにしても。
自分で奥手だと言っていたイメージのせいか、夫にも複数の選択肢があったなんて、まったく想像もしてなかった。
けれど、そのせいもあって態度がハッキリしてないように見えたというのであれば、確かにつじつまは合う。
逆に言えば、複数候補の中で「この人がダントツで好き」という感情が湧かないという人が、悩んだ末に私という選択をしてくれたことは、私にとっては奇跡みたいなことで、感謝してもしきれない。
というわけで、どうやら結婚することになったらしい私たちは、
それまでの遠慮がちな(?)ペースからは信じられないくらいたくさんのメールをやり取りした。
まず、これはあらためての自己紹介なの!? と思うような来歴が書いてあった。
曰く、
自分はほぼずっと「いい人」だけで通ってきた。
これまで二人くらいしか仲良くなった女性がいないし、それとて他の人から見たら、まだまだライトな付き合いにしかなってなかったのだと思う。
こんな人間だから、どういうタイミングでどういう振る舞いをするべきかがよくわかってなくて、私に対して自分から積極的なアクションを起こさずに来てしまった。
——本当にそうだ。アクションどころか、気持ちもまったく見えなかった。
あのデートの時に、多少でもいいと思ってくれたのなら、もっと早く示してほしかった。
そうすれば、脈がないんだと、私が半年も悩むこともなかっただろうし、
ほかの候補が現れる前に決着してただろうから。
私はこう返した——。
今となっては、そんなことは気にしなくていいです。
大事なのは、その間ずっと私の好きだという気持ちが変わらなかったってことで、
結果がこうなって、私はとても幸せに感じているから。
夫の返事。
好き好き大好きという気持ちを向けられるのは慣れてないので、
今のこの状況の麻薬のような快楽に、私も少しやられているのかもしれません。
こちらから好き好き大好きとは言えないような朴念仁で申し訳ないけど、
こうして『自己開示』をしてることから、私の気持ちをお察しください。
そして、「ここまで来たからには、あれこれ余計なことを考えずに、淡々と行動を積み重ねていく方がいいと感じる」と書いてあった。
その言葉通り、結婚までに考えておくべきことややるべきことを、このあと夫の方からどんどんメールで送ってきた。
私が返信すると、それに対する返事も早かった。
状況が変われば、こんなにも人って変わるのかと驚いた。
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