縁は異なもの味なもの。

クリスマスまでの3カ月を、またどっちつかずの不安の中で自力で乗り切れる自信がなかった私は、占いに行った。

笑っちゃうけど、大真面目だ。


何でもいいから、推進力をサポートしてくれるような依り処がほしい。

お守りのような言葉でも、実質的なアドバイスでも、怪しいおまじないでも、形態問わず、で。


オーラが見えるというその人は、以前にも、その年の私が人を引き寄せる強いオーラを放っていると言っていた。


それはこの時点でも続いているらしかった。

肝心の一番引き寄せたい人に効力が及んでない感じではあったけれど。


夫の写真を見せて、お告げ(?)を待った。

すると、「この人はガードが固くて、どういう人か見えてこない」などと言われた。


SNSではわりと愛想よくいろんな人とやり取りしてる。中には、彼を憎からず思ってる匂いがする女性もいる。

夫に関してのそんな情報を投げかけると、確かに何人か見えるし、彼の方もそうやって寄ってくる人をまんざらでもなく受け入れているふうだと言う。女子学生に至っては、「かわいい」と思ってるらしい。

でも、だからと言って、それが何らかの関係に発展するというほどのものでもない、と。


少なくとも、もう諦めて引いた方がいいと判断するような材料は見当たらないらしかった。


保険の男がいることを話したら、そのオーラならそうだと思いますよ、いろんな人が来るでしょう、と言う。

そして、「まあ、今はキープしておけばいいんじゃないですか? いざとなったら、抜いてあげますから」と、大したことじゃないように言われた。

そして、私の願いが成就するようにと祈祷してくれた。


この占い師さんはすごい人らしいのだけど、最後にこの一言がなければ、占いに行ったことで大きな依り処を得たとは言えなかったかもしれない。


「晩秋に、何か変化がありますね」


彼はそう言ったのだった。


そうだな、うん、秋が深まるころだな。

さらに確認するように言う。


変化って何ですか!? と私は色めき立って訊いたけど、ハッキリとはわからないらしかった。

いま思えば、夫の着てる鎧が鉛のように手強くて、すごい占い師をもってしても見透せなかったってことかもしれない。

こんな話をすれば、夫はキョトンとする。そんなことも今だから笑えるけど、夫の鎧はおそるべきものだった。



その年は、私は聞きかじっていた風水にしたがって、赤い手帳まで買っていた。

南東に赤いものを置くと、恋愛運だか結婚運だかが上がるんじゃなかったっけ? と。


手帳には、まるで実際に起こった出来事や確定した予定があるかのように、「こうなりたい」という項目を先回りして書いていた。


バレンタイン、花火、クリスマス、誕生日など、恋人といっしょに過ごしたいイベント。

「親にあいさつ」など、結婚が決まったらすること。

そして、「結婚式」。


この年が過ぎた時、実はほとんどが叶っていたこと——ディテールでの多少の誤差や変更はあったけれど——に気づいて、鳥肌が立った。

願い事は、より具体的に詳細に鮮明に、口に出したり、紙に書いたりすることで叶いやすくなるって言うけど、本当だった。


ほかにも不思議なことはいろいろあったけれど、それは別の機会に書きたいと思う。


そもそも、この広い世界で何十億もの人がいる中で、たった二人が出会って結婚するんだから、「縁」というそれ自体が不思議であり、奇跡だ。

でも、たくさんの奇跡が起こってるから、人類は増え続けているのだし、たくさんの奇跡のうちの一つが、自分の身に起こることだってあるのだ。

起こるまでは信じられないかもしれないけど。


そんなわけで、運命の分かれ目の日がやって来る。

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