脈なし認定。
これを読んでる人は、展開がつまらないと思ってるだろう。
進展が遅い。気持ちが見えない。わけがわからない。ぐるぐるぐるぐる、同じところで回っている。
これを実際に経験してる時の私も、「つまらない」ではないにしても、同じように思っていた。
ならば、どうしたらいい?
読み物ならそこでページを閉じるまでだけど、ページの中にいる私はそうもいかなかった。
夏、花火デートは最高に盛り上がるシチュエーションのはずだった。
それが雨でダメになったのはしかたないとしても、そのリベンジともいえる次の約束を、あちらは大事なものと捉えてないように見える。
気分は、天国から地獄。
もうダメ、という気がしてきた。
もう一度エネルギーを振り絞る自信がない。
拭い切れない「好き」という気持ちだけ抱えて、ホテルの柔らか過ぎるベッドに横になる。疲れてるはずなのに、なかなか眠ることができなかった。
朝になっても、赤信号は灯ったままだった。
今日は、夫が出張だとわかった時点で、たまたまこの地に実家があってお盆帰省している友だちに、観光につき合ってもらうよう頼んでおいた。
今回、なぜここに来ているのかは話してあったけど、詳しいことは言ってない。車の中で私は、悶々とする気持ちを彼女に打ち明けた。
はっきりしない人だね。
なにそれ、いくつの人?
何してる人?
うーん……
まるで、不審者の正体を暴くかのような質問のしかたをしたうえ、「どう見ても、脈はない」と結論づけたようだった。
さらに、
いいトシをして、しっかりした仕事もしてるような人なのに、女性に対して曖昧な態度で不誠実。
かと言って、その気(=脈)がないのに「きちんと断る」という最低限の礼儀もない。
というダメ男にされてしまったようだ。
そうわかったうえで、こっちからわざわざ断るのでなければ、相手がはっきりさせて来るまで様子見てれば?
彼女は眉間にしわを寄せながら状況を整理して指南してくれたわけだけど、それで私の悶々としたつらい気持ちが変わるわけではない。
それにしても、ひどい言われようだった。
今だから、夫のために言い訳しておこう。
夫は、通常より仕事が忙しかった。そんな中、進まない原稿のことも心に引っかかっていた。翌日からは調査旅行に出かけなくてはならない。
確かに、心底レジャーを楽しめるような心境じゃなかった。なのに、メインの花火が順延で、遠くから来た「まだそんなに親しくない人」をなんとかもてなさなければならないというプレッシャーが重くのしかかる。
不器用で、切り替えが下手な夫にとっては、かなりいっぱいいっぱいだったのだろう。
土砂降りの中、通行止めを気にしながら山道を往復運転して、そのあとも適当な時間まで間を持たせなければならない。
あまり人づきあいの得意じゃない人が、一日中、不測の事態の中で親しくない人とそんなふうに過ごすことになったのだ。
かなり疲れたのだと思う。
だから、忘れていた約束を取り繕ったり、次のことを考えたりする心の余裕もなかった。
食事が終わって、ホテルに送り届けて、早く一人になってホーッと一息つきたかったのだ。
——とにもかくにも、花火デートは期待していたのとは正反対の結果を私に突きつけて終わった。
そして、事態は思わぬ方へ転がっていった。
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