土俵際で。

翌日の友だちとの観光を終えて、私は傷心のうちに遠路、帰宅した。


私が無事に帰ったかどうか、そんなことも彼は気にしてないんだろうな。

帰った日も、翌日もメールなどが来る気配はない。


気持ちは最悪だった。


それでも、私だけは最低限の礼儀を、と思い、帰った翌日にお礼のメールをした。


デートの翌日に友だちと観光を楽しんだこと。

無事に帰ったこと。

そして、演奏会のチケットが取れたこと。


最後に、出張が首尾よく完遂できますように、と添えた。


送信してからその日一日、何度もメールの着信を確かめていたけど、返事は来なかった。


一方、夫のSNSでは、私たちが取った花火の桟敷席チケットを、翌日の順延開催に向けて知り合いに譲った件が書いてあった。

無駄にならなくてよかったと思うと同時に、譲った相手が女性だったことにモヤモヤする。完全に八つ当たり的な焼きもちだった。


この人は、どういう人なの?

もしかして、花火も本当はこの人と行きたかったんじゃないの!?


——最悪なメンタルだ。


それから、SNSではマメに更新したり、反応を返したりしているのに、なぜ私のメールへの反応はこんなに鈍いの?

そんなことにまで、疑問を持った。


ますます最悪。


なに考えてるの? どう思ってるの? どうしたいの? どうもしたくないの?


悶悶悶悶……


好きだからがんばりたいけど、動力はほとんど尽きていた。


たった一晩、返事が来なかっただけで、私は崖にかかった最後の片手を離すところだった。


そして、それを見ていたかのように、ギリギリの瀬戸際でメールの返事が来た。

翌朝のことだった。


もちろん、天にも昇る気持ちに。

その時のほんの一晩の音信不通で、すべてを投げ出さなくてよかったと思う。


演奏会のチケットが取れてよかったということ、演奏会の翌日はランチくらいなら時間が取れるかもしれないこと。

そして、何より私がときめいたのは、調査旅行の様子がちょっと書いてあったこと。


用件だけじゃないメールは、最高にうれしい。

額に入れて飾りたいくらいだ。


次の約束まで1カ月半。

ここから、またがんばれる。


……はずだった。


が、何もないところに、何をどうつないでいけばいいのか、そこが難しかった。


メールするネタを求めて必死にSNSをチェックして、その内容に絡めてメールする。

体調悪そうですけど、大丈夫ですか?

○○は、こうした方がいいみたいですよ。


でも、返事がない。一切来ないのだ。


私ももう前の私とは違って、こういう状態に疑問を持ってしまっている。

花火デートのあと、たった10日間ほど一方通行が続いただけで、限界を感じてしまった。


正式につき合ってないにしても、一切反応を返してこないってのは、まったくがないってことじゃない?

だったら、この悶々を続けてる意味、ある?


私は、関係をはっきりさせるためのメールを送って、その結果で進退を決めようと決意した。

宙ぶらりん状態に疲れてしまった。


だけど、そのメールを7回も書き直して、結局出せなかった。


そうこうしてるうちに、分岐点がやって来た。

それで私は、とりあえずは、思い詰めるのをやめたのだった。

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