無言のデート延長で。
ちょっと想像していたのとは違う夜ごはんが終わり、これが運命の店だったと知る由もなく外に出る。
ゴールデンウィークのデートはいよいよ最終局面。
あとは私を車に乗せて、夫が駅まで送ってくれて終わりだ。
電車の時間までは、中途半端に間があった。
だけどおそらく、夫は駅で私を下ろしたら帰ってしまうだろうと思われた。なにしろ、そういうことに慣れていない人だから。
このような時に異性に好かれるような対処のしかたがわかっていないだろう夫の、奥手で不器用なところが私はむしろ好ましかったので、本当にそうされても夫のことを好きでい続けられただろう、とは思う。
ところが思いがけず、夫は「まだ時間があるから」と駅とは違う方向へ車を走らせた。
まず、通勤路だという道を通り、ここは町で一番大きな○○の工場だ、などとポツポツ話す。
それから自分の職場(大学)の方へ回り、外周をぐるっと見せてくれた。薄暗い中にぼぅっと浮かび上がる大きな建物。
職場を見せてくれたことがすごくうれしかった。
だけど、確信が持てない。
この建物は、今後も夫の職場として私も関わることがあるのだろうか。それとも、いま見ただけで終わりのものなのか。
そんなことを思うと心許なくて、建物もどこかよそよそしく感じられて、うれしかった気持ちがすぐに萎んだ。
何も言わず、車はさらに郊外の方へと進んだ。
二人の時間に、まだ続きがあるの?
そのことが、少しだけまた私の心を生き延びさせる。
車が小高い丘の上の駐車場に止まる。
夫にしたがって外へ出ると、町の灯が見渡せた。展望台になっているらしい。
4月の夜の風は冷たい。
目の前には、大都会の煌々としたゴージャスな夜景ではないものの、小ぢんまりと温かい光の海。夜風の中で身も心も震えながら、また同じことを考えた。
この風景が自分のものになることがあるのか、このまま思い出としてよその観光地の風景で終わるのか。
「きれいだね」
そう言いながら深呼吸をして、泣きたい気持ちを堪えた。
この時の私は、あまりにも二人の関係の確証をほしがっていて、全然、夫の気持ちが見えなかった。
このつきあいは続くのか。私はどう思われているのか。
今日が終わって明日になったら、その先は?
そもそも、私たちはつき合ってるのか?
そして、何より今、これで「さよなら」とバラバラに帰るのが悲しい。
それなのに、何も言えず、何も訊けず、ただ手探りで、遠慮がちに出方をうかがっている。
夫がどう思っているのか全然自信がなく、訊いてはっきり答えが出るのが怖かった。
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