夫の住む町で初デート。

4月29日、ゴールデンウィークの初日。

それが、私たちの次の約束だった。


当日、朝の弱い私としてはがんばって早めの電車に乗る。

いつもなら乗り物では寝てしまうことも多いから要注意。

デートで寝起きのボロボロ感は出したくない。

だけどやっぱり、そんな心配は杞憂で、

ドキドキする心臓が私を寝かせるわけもなかった。


改札で夫が待っていてくれた。

その姿を見つけた時の高揚感。

周りの情景は全部ボンヤリとして、そこだけがくっきりとフォーカスされる。


私は胸がいっぱいで、自動改札機への切符の入れ方を間違えたらしい。

ゲートがバタンと閉じられてしまったのに、それより一瞬早く通り過ぎていたので、

すり抜けて出てきてしまった。

夫が心配そうに駆け寄って、私が手に持っていた帰りの分の切符を点検してくれる。

間違ってそっちを入れてしまっていたら、帰る時に大変だから。

大丈夫だとわかって、ふふふ…と二人で軽く笑い合った。

そんなふうに心配してくれたことも妙にうれしい。


私が行きたいところを観光ガイドで選んでおくように言われていたけど、

選択に困るほどスポットが多いわけでもなかった。

まずは順当に近場の有名どころへ行くことになった。


行ってみると、最近よくある縁結びの願掛けができるコーナーがあり、

グッズを買ったりはしなかったけど、こっそりお願いしてきた。


ちなみに、そこはこの地での記念すべき初デート場所ということで、

入籍の際に私たちのとして登録することになった。


そのあとは、車で通りかかって目についたポイントに寄ったりしながら、

自然林の中を散策できるところにやって来た。

まずは近くのレストランでランチをして、春に目覚めたばかりの草木の間を歩いた。

虫や変わった植物など面白いものを見つけると、それについて話すくらいで、

あとは夫のゆっくりしたペースについて散歩するという感じ。

そのまったりとした静かな時間の中、一番沸き立っていたのはもちろん私だった。


近くの美術館にも寄った。

ゆっくりと館内を歩きながら、好きな絵や、自分が学校で描いた絵などについて、

主に私の方からポツポツと話す。


昔、私に結婚を申し込んでくれた人が言ってた言葉。

「君といっしょに絵とか見ながら話せたら、一生楽しいだろうなと思った」


夫は、このとき私と絵を見ながら歩いて、話して、何を思ってたんだろう。

私は、たとえお互い言葉を交わさなくても、

こうしていっしょに歩いてるだけで幸せだなって思っていた。


だけど、日は暮れて、やがて帰りの時間がくることを嫌でも意識させられる。

いっしょの時間が楽しければ楽しいほど、

また同時に別れがたく悲しい気持ちが、ひたひたと胸の奥に満ちてくるのだった。

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