第3譜  最終的な生き残りは1人

 

「まず、第1に……」

 

 光秀は声に出して、ノートの文字を読む。

 

「最終的な生者は、1人」

 

 これがまず、ノートを開いて第1ページ目に書かれた言葉だった。

 

 このページには、それしか書かれていない。

 

 中央に書かれた、小さな文字。

 

 しかし、たった1行しか書かれていないことが、その重要性を語っていた。

 

 ようは、この1行こそが、このノートの最も伝えたいことなのだ。

 

 この、『異』なる世界。この世界に、あの戦国の世を生きた者共がひしめいている。光秀は歩き回り、既に知己の顔に逢っていた。長秀にも、勝家にも逢った。佐々成政は見かけた。長秀の話では、森蘭丸と遭遇したという。その他、織田家の敵対者とも逢った。また、先日会ったその男は、山崎の合戦は話に聞くだけで、生まれていなかったと言った。俄かに信じられないが、しかしその男は本能寺も山崎も詳しかった。どういうことになっているのだ、この不思議な世は……。

 

 それを解くカギが、このノートの次のページに書かれている。

 

「この、お主が今いる世界は、戦国の世を生きた者どもが、再び『生』を与えられた世界」

 

 光秀は、いくぶん掠れた低音でノートの文字を読む。かつて、自分の甲高い声が嫌いだった織田信長が、声を取り換えたいものだなと言い、剣先を光秀の喉に突き付けた。密閉された部屋に自分の声が響き、光秀はかの場面の、あの冷たい剣先を思い出した。

 

 このページには、もう少し文字が続く。

 

「『生』は、仮に与えられただけのもの。戦い、敗れた者はそこで生を終える。最終的に勝ち残った者だけが、『生』を続けられることになる」

 

 つまりは、核となる前ページの言葉の補足ともなっているのだ。

 

 光秀は鋭敏な頭脳で言葉の意味をつかむ。つまりは、戦国の世で名のあった者たちが一同にこの『異』なる世界に集められ、戦わされ、そして勝者1人が褒美として『生』を与えられるというもの。

 

 またページを繰る。そこには、この世界に対する説明があった。

 

「この、お主がいる『世』は、戦国期から500年ほど経った世。お主たちが生まれ、生きた戦国期よりはるか前、平安の世や平家、源頼朝の世があったように、世は連綿と続く。お主たちの世ののちも世は続き、それは変化をしている。その戦国期から500年を経た時代の知識を、生まれ変わったお主らに捧げる」

 

 それでなのか、と光秀は思う。その『現代』の知識が与えられたから、この部屋に対して強烈な驚きがなかったのだ。ベッドがあり、電灯があり、各種の機器があっても、それをごくしぜんに受け入れられたのだ。そしてノートを見、持ち、開いても、ボールペンの文字を見ても、まったく当たり前のこととして行動できたのだ。

 

 では、どう戦うのか?  剣か? 槍か? あるいは相撲のような、武具を使わない腕力勝負か?

 

 それが次のページに書かれていた。

 

「将棋によって勝者を決める」

 

 



 

 

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