第39話

何かが書いてあるのは分かるが、はっきり読めない。それに、

「なんだ、この色は!」

小原にとって、苛つくような色だった。

小原は小さな紙片から目を逸らした。

ピピッ

苛つく鳴き声聞こえて来る。まだ小原から離れようとはしない。

小原は空を見上げるが、全然見えない。まだ、すぐ近くにいるようだ。

九鬼龍作には何人かの仲間がいる、その事実は把握している。しかし、

(あいつは、時には男にも女にも化ける)

のを、彼は把握している。しかし、その様子を、彼は確認したことがない。龍作は人・・・人間を心底信じていない。信じているのは、本物の相棒である。それが、

(あの小鳥か・・・?)

真の相棒なのか?

小原に確信はなかった。

「俺も人間をそれ程信じていない」

彼は、

「くそっ」

と吐き捨てた。

ピッ

(まだ、いるのか)

(間違いない)

小原は背中にしびれが走った。

「やはり、間違いない。奴は、中にいる」

小原警視正は博物館の中に走った。

小さな紙片に何が書いてあっても、そんなことは問題ではない。

「あいつを捕まえる」

ことだ。

小原の足はすぐに止まった。各展示室に配置していた警備の警察官は、みんな倒れていた。

「おい」

彼は一人の警察官の体をゆすった。

(起きない)

小原の苛立ちは、彼が気持ちく眠っているように見えたことである。

「夢でも見ているのか!」

それほど、気持ち良さそうな顔をしている。しかし、

「おい、起きろ」

小原は最後の手段として、目の前にいる警官の体を蹴飛ばした。

すると、長い眠りから目覚めたように、大きなあくびをして起きて来た。

「九鬼は、どうした?何処へ行った?」

起こされた警官は、きょとんしている。

「えっ、ああ・・・いません。九鬼って、誰ですか?」

(何かで・・・無臭のガス)

なのか、警官は、それに眠らされているようだ。

「あっ!」

小原は肝心ことを思い出した。

(絵・・・)

絵は、どうなった?

小原は本来展示されるべき部屋に走った。

あいつのことだ。あいつが返すと宣言すれば、必ずゴッホの絵は返されているはず。

彼は腕時計を見た。

零時を、三十分過ぎている。

「遅れている。遅れている。何があった。あいつのことだ、それなりの理由があったのだろう。くそっ、今回、あいつに振り回され過ぎた。俺の負けか」

小原は毒づいた。

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