第35話
龍作が話を止めようとした時、田沢淳子は、
「待って、ちょっと待って下さい。よく分かりました。陽太郎君・・・ゆうちゃんね、あの子、覚えているかしら?」
龍作は電話を切るのを止め、
「何を?」
と訊き返した。
「お聞きになっていないのね。うふっ」
淳子の可愛い笑い声が聞こえて来た。
「今年の三月ころ、美千代さん、ゆうちゃんを幼稚園に迎えに来れなくて、照美と一緒に帰ったんです。その時、サンタさんの話になって・・・二人ともとても話が弾んだんです。そうしたら・・・ゆうちゃん、僕かクリスマスプレゼントをあげるからね。照美ちゃんのお母さん・・・いいって、ゆうちゃん聞いて来たの。わたし、嬉しくなって、いいわよ、約束よと言ってら、照美もゆうちゃんも、とってもうれしそうだったんです。照美も楽しみに待っているみたいだから、余り心配しないでください」
「そんなことが、あったんですか。このプレゼントは少し高額ですが、照美ちゃんがきっと気に入ってくれるプレゼントですから」
「はい、はい、後は、私がうまくやりますよ」
「渡したか?」
黒いヒゲのサンタは、小さなサンタを迎えた。
「うん、ちゃんと渡したよ」
黒いヒゲのサンタのヒゲの中に白い歯が見えた。
(うれしそうだ)
余程うれしいのだろう、龍作もハハッと笑っている。
「さあ、行くか。私は、これから、やらなくてはならないことがあるんだ」
(やらなくてはならいなこと?)
首をひねったが、陽太郎にはよく分からない。
{いい子だから、このソファにいるといい}
「疲れただろう!」
こう言うと、黒いヒゲのサンタクロースは部屋から出て行った。
「何処へ、行くの?」
と陽太郎はいったが、もう目が閉じ始めている。
黒いヒゲのサンタクロースは立ち止まって、笑って見せた。
「私の友だちが待っているんだ。私が来るのを待っているんだよ」
(お前も知っている人だよ)
「へえ・・・」
(誰だろう?)
聞き返しはしない。眠いんだから。
陽太郎はもう目を閉じている。夢の中にいる。
(おじさんの大切な友達って、誰なんだろう?僕も知っているって言っていたけど・・・)
「これ・・・約束した僕のクリスマスプレゼントだよ。覚えているよね」
照美は、
「うん、はっきりと覚えている」
と頷いた。
「いいの?」
「いいよ、照美ちゃんのお母さんも知っているからね、僕がプレゼントをあげるのを」
照美は後ろを振り向き、誰かを探しているように見えた。
(・・・!)
何かを・・・そう誰かを見つけたようだ。その途端、照美の顔に笑みが浮かんだ。
(そう、お母さんである)
「ても、高くなかった!」
照美はまた後ろを振り向いた。
「う・・・うん、ありがとうね」
照美に笑顔が戻った。
「開けていい」
照美はいう。
(うん)
雪は止みそうにない。窓は開いているから、舞っている雪は、部屋の中に舞い込んでいく。
「寒くない」
陽太郎は輝美を気遣った。彼女の返事はない。その代わりに、嬉しそうな笑顔が、また返って来た。
「すてき・・・この服。今日見ていた服ね」
(うん)
「ありがとう。大事にするからね」
陽太郎は、この時の照美の笑顔を忘れない。
(もう、寝たのか)
龍作は小さな頭を撫でた。
「よかったな」
龍作も、それ以上何も言わない。
(向こうは、もっと雪が降っているのか!)
「行くか!」
こう声を掛けると、ソリは雪降る空に舞い上がった。
(少し遅れたが、まあ、いいだろう。あの人は、俺を待っている、久し振りに会うことになるな)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます