第34話
少しして、窓に人影が映った。
(照美ちゃん!)
声が出ない。
陽太郎は窓にゆっくりと近づいて行く。雪は相変わらず降っていたが、ここでは風が建物で遮られていて、雪は女の子が踊りを舞うように降っている。
窓が開いた。
ビックルはもういない。
陽太郎と照美の目が合った。
もう一度声が出そうになったのは、陽太郎の方だった。
体が震えている。寒いからではない。
懸命に笑顔をつくった。
照美はまだ驚いている。
当り前だ。謝りたいが、
こんな時、何ていう言葉を掛けていいのか分からない。
ごめん、と言おうとしたが、言葉が出て来ない。その時、
(ピッ、ピッピッ)
あのピックルである。何処にいるのか、見る余裕はない。
陽太郎は、はっと目を見張った。照美が傍にいるのである、何も言わないわけにはいかない。
「ごめんよ、こんな時間に・・・」
「大丈夫よ、どうしたの?」
照美は笑顔で返してくれた。陽太郎は、
「これっ!」
といって、プレゼントを渡した。
(なんなの・・・?)
という顔をしている。
「プレゼン・・・ぼくからのクリスマスプレゼント」
後の言葉が出て来ない。
「でも・・・お母さんが、何て言うか?」
照美はプレゼントを受け取ったが、戸惑っているようだ。
中身が気になるのか、箱をじっと見ている。
「服だよ。照美ちゃん、駅前で服を見ていたよね。水玉模様の可愛いスカートだね」
「サンタからもらったプレゼントといって、お母さんに信じてもらえるのか?」
有美ちゃんの心配も分かる。
(どうしたらいいんだろう!)
陽太郎は後ろを振り返ったが、誰もいなかった。
「寒くない?」
照美は首を振った。
(いい方法はないかな?)
そして、
「あっ!」
と、叫んだ。
陽太郎は、照美との約束を思い出したのである。そうだ、
(あの時、照美ちゃんのお母さんもいたんだっけ)
そうだ、そうだ・・・陽太郎は約束を思い出し、嬉しくてうれしくて仕方がなかった。
《このとき、照美の部屋のドアは少し開き、そっと覗き込む女の人がいるのを、二人とも気付いていない》
この女の人は口を押え、笑みを浮かべていた。
ここで、時間を少し戻します。九鬼龍作が田沢淳子に、
「陽太郎が照美ちゃんにクリスマスプレゼントを贈ろうとしているから、けっして怒らないようにしてほしい」
と説明しているときのことである。
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