第32話
(これでいい)
一郎君は疑いもなく陽太郎からのプレゼントだと信じるはずだ。
(お父さんはいなかったな。知らせを連絡した時、里子さんが出たからな。きっとうまくやってくれるはずだ一郎君の自慢のお父さんは・・・任務についているのかな?)
黒いヒゲのサンタは、空を見上げた。
(まだ、時間はあるな)
と呟いた。
ソリは、再び空に飛んだ。
陽太郎は、服の間から顔を出しているピックルに気付いた。いつの間にか、陽太郎の服の中に潜り込んだようだ。
「どうしたのかな!」
ピックルは、
(じいっ)
陽太郎を見上げている。
「心配しているんだよ」
黒いヒゲのサンタはピックルにウインクした。
ピックルが陽太郎の肩の上に止まった。
「ありがとう、大丈夫だよ」
陽太郎には、ピックルの気持ちがよくわかった。
「さあ、今度は、たくさんの兄弟のいる友だちに会いに行こうか」
陽太郎は、うんと頷いた。そして、一郎くんへのプレゼントよりは小さな箱だったが、それよりずっと重い箱を、黒いヒゲのサンタから渡された。
{どう、思うかな!}
陽太郎は心配だった、
「喜んでくれるのか?」
「ああ・・・喜ぶと思うよ。喜ぶさ」
サンタのプレゼントが、虎屋のういろう、なんて、聞いたことがない。
「自分の、そうしてやりたいと気持ちを信じることだ。そうだろう、君は・・・あの子、あの兄弟が好きなんだろう?」
陽太郎はうんと頷いた。一人っ子だから、うらやましかったけど、すきだった、みんな、すきだった。
「着いたね」
陽太郎は、大きく頷いた。
「ここで、待っているから。行っておいで」
少しずつ、ちょっとずつだけど、少年は逞しくなって来ていた。
黒いヒゲのサンタは、あの子を信頼して、ここで待っているつもりだったが、気になったことがあった。
⌒どうやって、プレゼントを渡すんだろう?ピックルが、ここに・・・と案内した物置に、一郎君に渡すプレゼントを置いた。我が相棒のピックルは一郎君の日々の行動を調べておいたのだろう。しかも、自分からの贈り物だと分かるようにした。だが、今度は、どうする・・・)
(行くか)
黒いヒゲのサンタは、独り言だった。どんなことをするのか、気になったのである。
(やはり、心配だ。あと二人で終わりだ。それから、黒いヒゲのサンタのクリスマスの最後の仕上げだ)
(まだ、起きているかもしれない)
誰も踏みつけていない雪はふわふわ。すっぽりと足が入り込む。でも、足に力を入れないと歩けない。
(あの子は、何をしようとしている?大丈夫だ。あの子は、私の子だ)
何度か・・・こんなに遅い時間ではなかったけど、正文君の家の前を通った時、家の明かりは点いていた。
いつだったかな。気になり、そっと窓から中を覗くと、正文くんは起きていた。
偶然、目があった。
ちょっとドキドキしたが、正文くんの方が、にこっと笑ってくれた。
それだけだった。
それ以来、正文くんと親しくするようになった。それに、兄弟が多くいるのが、とってもうらやましく思っている。
(今度も起きていねのかな?起きていて・・・)
陽太郎はそう願った。
カーテンは閉まっていたが、真ん中の辺りが少し開いていて、中の様子が見えた。
陽太郎がのぞくと、正文くんは寝ていた。
⌒目を開けてくれないかな!)
その時、正文が寝がえりを打った時、目が開いた。
「あっ!」
声を出してしまった。
正文は、陽太郎に気付いた。
「どうだった?」
黒いヒゲのサンタクロースは、その成り行きを見ていた。改めて、聞く必要はなかった。
「うん、ちゃんと渡したよ」
龍作は息子の頭を何度もなで回した。
「いろいろ話せたのか?」
龍作は気持ち良かった。
(この子は間違いなく、私の子だ)
窓を少し開け、何を話していたのか、龍作にはよく聞こえなかった。だが、陽太郎も正文という子もとっても嬉しそうに話していた。龍作には、それだけで満足だった。
(相手の館に忍び込む前に、私は変装をして相手のあらゆる弱点やらそこに住む人たち様子を調べることにしている。この子は、今、その方法を実践していた)
「ふふっ!」
後は、正文君のお父さんがうまくやつてくれるはずだ。
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