第31話

これまで、何人の子供だちの家にプレゼントを置きに行ったのか、覚えていない。たくさんの家に置きに行ったのは確かだった。うつらうつら眠っていたのかも知れない。

最後のプレゼントを渡し終え、黒いヒゲのサンタが帰って来た。

優しく笑っている。

「眠いか!」

陽太郎はこくり。

「よし、行こうか。今度は・・・」

黒いヒゲのサンタクロースを見上げると、にこりと笑っている。

何処へ、という顔をする。

「はは、君の友だちの家だよ。確か・・・三人だったね」

陽太郎は、うん、と答えた。やっとみんなに会える、と喜んだ。

「誰からにしょうか?」

「いち、一郎君」

もう、寝ているかもしれない。

一郎君も、そうだけど・・・もうみんな寝ているんだろうなと思った。そう思うと、今度はちょっぴり悲しくなった。喜ぶ顔が見たかったのである。

「どうした?さあ、行こう」

トナカイに声を掛けると、ソリは、また雪の空に舞い上がった。


「ここだね」

陽太郎は頷いた。言葉が出て来ない。家の中から明かりが漏れていない。

黒いヒゲのサンタは荷台の中から、小さな箱を取り出した。

「はい、自分で持って行くね」

陽太郎はソリから降り、積もった雪の中を歩き出した。

一郎と遊んだことはあるが、家の中に入ったことはない。一郎くんがどの部屋に寝ているのか、知らない。

(何処に寝ているんだろう?)

陽太郎はゆっくりと歩いた。時々足を雪に取られ、躓きそうになる。

この子が、プレゼントをどのようにして渡すのか気になった。空を見上げると、雪はやみそうもない。

(寒い)

少しもそんな素振りを見せない。黒いヒゲのサンタは、しばらく黙っていることにした。

陽太郎は玄関から裏に回るようだ。

右手にプレゼントを持ち、左手で胸を押さえている。コリ時、

「ピピッ!」

ビックリル鳴き声だった。すぐ傍を飛んでいて、陽太郎に、

(こっちへ・・・)

と誘っている。

少しの疑いを持っていない。彼は、後について行ってみる。

⌒何処へ、行くの?)

迷わずに、庭の方に来た。

その先に・・・物置が見える。


(ここだよ)

陽太郎は、

「ありがとう、ビックル」

こういうと、彼は物置を開けた。

⌒開くのか!)

「あいた」

ほっと、表情を和ませる。

物置の奥の方に、みかんの段ボールがある。

「ここに、入れとくよ。おじさん、何か書くもの、持っていない?」

気になり、陽太郎の後をついて来ていたのである。

「ああ、あるよ」

黒いヒゲのサンタは、マゼンタ色のペンを出した。

陽太郎は、プレゼントの箱に、ようたろうサンタからだよ、とかいた。

マゼンタ色のペンを返す時、

「変わった色なんだね」

と、いった。

「そうだろう」

黒いヒゲのサンタは黒いヒゲの中に、真っ白い歯を浮かべた。


帰り際、龍作は玄関の明かりが点いたのに気付いた。明かりに人影が映り、玄関が少し開いた。女の人で、龍作と目を合わすと、可愛い笑顔が浮かんでいた。


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