第30話

「君の友だちへのプレゼントは、最後になるからね」

陽太郎はこくりと頷いた。空には雪が舞い散り、時々目の中に飛び込んで来た。そんな時、陽太郎は黒いヒゲのサンタの胸に顔をうずめた。寒かったが、がっしりとした胸は暖かく気持ちよかった。

(みんな、どうしているんだろう?もう寝たのかな?〉

陽太郎は、昼間にあった出来事を思い出していた。

(一郎くんはきっと寝てるね。正文くんは、妹と弟が寝てから、いつも寝るって言っていた。でも、今日は遅いから、もう寝たよね。有美ちゃん、もう寝たのかな!)

陽太郎は早くみんなの所に行きたいと思った。そして、

(僕のプレゼントを早く渡したい)

でも・・・みんな寝ているのか!

有美はお母さんと二人だけ。いつもは・・・というより、お母さんから出来る限り一人で寝るように言われているらしい。でも、時々、急に寂しくなるらしい。そんな時、有美は大好きなピーターラビットの枕を持って、お母さんの傍に行く。そうしたら、お母さんはにこりと笑い、

「いいよ」

といい、同じに寝る。

有美ちゃん・・・嬉しそうに話してくれた。お母さんの胸は優しくて柔らかいんだろうな。陽太郎は黒いヒゲのサンタの胸に顔をくっつけた。暖かかったけど、とても逞しく感じた。陽太郎は母の胸の温かさを思い出そうとした。でも、この頃、

(僕も大きくなったから)

お母さんに抱かれて寝たことがなかった。それは、僕は男だから、しっかりとしなくてはいけないと思うようになったからである。有美ちゃんはお母さんと甘えていい。だって、女の子なんだから。

(有美ちゃん、僕のプレゼント、喜んでくれるかな!)

陽太郎はちょっとだけ、不安になった。

(気に入ってくれるのかな・・・)

あのウインドの服を、憧れるように見ていた有美ちゃん。僕は男の子だからよく分からないけど、きっと着たいのに違いないんだ。陽太郎はそう信じたかった。この時、誰からか見られているような気がした。

ピックルだった。ピックルは、彼の手の中にいた。じっと動かずにしていて、じっと陽太郎の顔を見上げていた。


「ピッピッ!」

聞き覚えのある鳴き声だった。陽太郎はすぐに手を広げた。

ピックルは雪の中に勢いよく飛んだ。雪に止む気配は少しもなかった。黒いヒゲのサンタの肩に止まり、何やら仕切に泣き始めた。その様子を見ていると、ピックルは黒いヒゲのサンタに何かを伝えているように見えた。ほんの十秒くらい鳴いていた。

「分かったよ。この子も行くから」

黒いヒゲのサンタの言葉に、

「ピッピッ!」

と返事をした後、雪の舞う空に飛んで行った。

陽太郎は黒いヒゲのサンタの言葉に首をひねった。

(行くって、何処へ行くんだろう?)

その時、

「あっ!」

ソリが急降下し始めたので、陽太郎は黒いヒゲのサンタクロースの胸に抱き着いた。

「さぁ、クリスマスプレゼントを待っているね、最初の友だちの家に着いたよ。驚いているね。どうして君の友達の家を、私が知っているのかって、目をしているね。君のプレゼントをもらってくれる子供たちは、私の友だちなんだよ」

陽太郎は何だか嬉しくなった。

「ちょっとの間、忙がしくるからね」

黒いヒゲのサンタは陽太郎を抱き上げると、ソリから降り、小さな家に向かって歩いて行った。その小さな家の明かりは消えていた。

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