第29話
「さあ、おいで。ここに、お座り」
黒いヒゲのサンタクロースは大きな暖炉の前にあるソファに座り、隣に来るように手招きした。ソファから少し離れた処には、大きな暖炉があり、薪が数本組まれ、火が燃えていた。
部屋の中は暖かく、気持ち良かった。
「どうだい?」
陽太郎は何て返事をしていいのか分からい。
「私の館はどうだい?」
陽太郎は黙っている。
「驚いたかい?」
陽太郎はこくりと頷いた。眠そうな目をし、大きなあくびをした。
「そうかい。少し、疲れたのかもしれないね。今、みんなでプレゼントの準備をしているから。それまで、お休み」
黒いヒゲのサンタクロースは陽太郎を抱き寄せた。入って来た時には気付かなかったけど、暖炉とは反対側の壁には、それほど大きくない絵が掛かっていた。陽太郎は、
「あの絵は・・・?」
といったが、はっきりと声にはならない。
抱かれた気持ち良さに、今にも眠ってしまいそうだった。でも、彼は言い続けた。
「僕の大好きなひまわりだね。ぼく・・・何処かで見たことがあるよ。そうだ、お母さんと買い物に行く日の朝、新聞に出ていた絵とそっくりだよ。お母さん、新聞の字を読んでいたけど、僕は、ひまわりが気になったんだ。そのひまわりの絵を、もっと見たかったんだけど、お母さん、読んでばかりいて、僕にひまわりの絵を少ししか見せてくれなかった」
陽太郎は黒いヒゲのサンタクロースの暖かい胸に顔をうずめた。うっすらと開いた目は、花瓶の中の十四本のひまわりを捉えていた。額縁の絵は、陽太郎の身長より少し高いくらいの大きさだった。
「そうかい」
黒いヒゲのサンタは少年の肩を抱き寄せた。
「きっとお母さんも、ひまわりが好きなんだよ、陽太郎君と同じように。でも、その時は、書いてある記事に興味があったと思うよ」
黒いヒゲが揺れ、白い歯が見えた。この人は少年と母のやり取りが余程好きのようだ。
陽太郎は眠りながら、こくりと頷いた。その幼い顔は笑っていた。
次に目を覚ました時には、陽太郎はソリに乗っていた。
「さあ、プレゼントを、子供たちに配りに行くよ。みんな、プレゼントを待っているからね」
黒いヒゲのサンタは陽太郎の頭を撫でた。
陽太郎は、うんと頷いた。
「よし、みんな、行って来るよ」
ソリの周りにはたくさんの動物たちがいた。みんなが一斉に騒ぎ出した。何を言っているのか分からなかったが、みんなが何度飛び上がったりしていたので、喜んでいるのだと思った。
すると、陽太郎の胸の中に小さな何かが潜り込んで来た。手を入れ、確かめると、ピックルがいた。
陽太郎は黒いヒゲのサンタクロースを見た。
「お前も行くのかい?仕方ないな」
陽太郎は嬉しくなり、ピックルを胸の中に押し込んだ。
「よし、行こう」
と黒いヒゲのサンタクロースが声を掛けると、ソリは雪の降る空に舞い上がった。
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