第27話

(遅い、遅い)

 小原は苛立っている。余りに時間の進みが遅いからである。

龍作がそう宣言したからには、必ず現れる。じっとしていられない。足早にそこらを歩き回る。

(待つしかないのか。俺は奴に踊らされているような気がしてならない。何か手を打てないのか?)

小原は自分を納得させようとするが、苛立ちは収まらない。

雪は降り止む気配は全くなかった。目に雪が入り、開けていられない。

「ピッ、ピピッ」

(さっきの鳥がまだ近くにいるか?うるさいな、俺に何かを言いたいのか)

気になる、なぜだ?小原は鳥らしきものを探そうと目を配るが、何処にいるのか見当さえつかない。

「誰だ・・・」

小原は、

(人・・・)

の気配を感じた。

「おい、誰かいるぞ」

小原は近くにいる警察官に声を掛ける。博物館は明かりを消してはいない。博物館の中から漏れる明かりと雪で、この辺りは明るい。

「警部・・・いや、失礼しました、警視正。鹿・・・鹿です」

集まって来た警察官が全員見ている方を見ると、確かに鹿が二頭いた。目だけが光っている。

「いや、もっとたくさんいるぞ。何だ!なぜ、こんな所に集まって来ているんだ?」

よく見ると、光る眼の数がだんだん増えて来ているように感じだ。

しかし・・・よく考えると、この奈良公園は鹿でも有名なのだから、ここにいて、不思議ではない。

「おい、どういうことだ?」

小原は近くにいる警察官に怒鳴った。見ると、誰もが集まって来る鹿たちを呆然と見つめている。

「何とかならないのか?」

と、小原は言うが、誰も返事をしない。

「奈良公園の管理事務所に知らせろ」

とにかく、小原はそう命令を出した。彼には鹿を逮捕することなんて出来ない。猫さえ、彼には恐怖に近い感情を抱いているのだから。


城倉陽太郎は体を揺すられて、目を覚ました。どうやら黒いヒゲのサンタロースに抱かれ、眠ってしまったらしい。

「さあ、着いたよ」

陽太郎は暖かい腕の中から顔を出し、辺りを見た。まだ雪は降っていた。いいや、一層ひどくなったように感じた。

「あれは・・・?」

降り頻る雪の先に、大きな建物が見えた。

「あれが、私の住んでいる家。黒いヒゲのサンタクロースの館だ。さあ、行こう。たくさんの友だちが待っているから」

黒いヒゲのサンタクロースは陽太郎を抱き上げ、雪の中をゆっくりと歩き出した。

「友達?」

「そうだよ。館ら中にはたくさんの友達がいるからね」

だんだん館に近づいて来た。雪が時々目の中に入って来る。陽太郎は目を閉じ、暖かい胸の中に顔をうずめる。

「ピピッ、ピピッ」

陽太郎は、何だろうと顔を上げる。聞き覚えのある鳴き声だった。

「あっ!」

降り頻る雪の中を小さな鳥が、館に向かって飛んでいた。マゼンダ色をしている。

「友達・・・?」

「ああ、そうだよ。私の大切な友達だよ」

黒いヒゲのサンタクロースの腕は、陽太郎の小さな体をギュッと抱き締めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る