第25話

陽太郎はケーキを食べた後、すぐにベッドに潜り込んだ。

美千代はケーキを少ししか食べなかった。そんな気分じゃなかった。会えなかった人がまだ気になっているようだった。

(どうして・・・会ってくれないの?あの子ばかりじゃなくて、いい、わたしだってあなたに会いたいのよ。信じているよ、あなたのことを、誰よりも信じているんだけど・・・私も寂しいのよ。今夜は眠れそうにはないわね)

美千代は窓から外を覗いた。ますます雪は強く降ってきている。

もう一人、この家には眠れない子供がいた。もう一つのプレゼントが届かないことが気になり、陽太郎はなかなか眠れなかった。

(黒いヒゲのサンタさんは、今年は私がそのサンタクロースになってやろう)

といっていたけど、どうかな。本物のサンタは何処にいるんだろう・・・今年は来ないんだろかな?陽太郎にはよく分からない。

彼の目が机の上にある小さな時計をとらえた。

午後の、

(十一時・・・)

を過ぎている。いつもなら、もう眠っている時間だ。

寝なくっちゃ、と思い、シーツを首まで引っ張る。。

陽太郎は、目を閉じた。

すると、窓をガタガタと叩く音がしたのである。

目をやると、

窓に黒い人影が映っていたのである。陽太郎はベッドから起き、

「誰・・・なの?」

窓の外からは返事はなかった。

彼は思い切って窓を開けた。

「あっ!」

とゆうは声は出した。

そこにいたのは、昼間、町で一緒だった黒いヒゲのサンタクロースだった。

「おじさん・・・」

彼はびっくりして、次の言葉が出て来なかった。

そんな陽太郎の驚きを察したのか、

「静かにして、お母さんが起きるよ。さあ、一緒に行こう」

と言って、陽太郎を抱き上げ、窓の外に連れ出した。

寒いよ、と言おうとしたが、陽太郎は言えなかった。抱いている男の体が暖かかったから。雪は降り続いていた。黒いヒゲの所々にも、雪がくっついていた。

黒いヒゲのサンタクロースは陽太郎を抱き、少し歩き出した。

「待って。何処へ行くの!」

「みんなに、クリスマスプレゼントを配りに行くんだよ」

「えっ・・・おじさん、サンタクロース・・・」

「もう、言ったよ。私は黒いヒゲのサンタクロースだって」

陽太郎は少し本当かなと思ったが、今日一日黒いヒゲのサンタクロースと一緒にいて、

「待って、プレゼントを配りに行くんだったら・・・待ってて。もう一度僕の部屋に戻して」

と、ゆうは暖かい腕の中から出ようとした。

「分かった、分かった」

陽太郎は部屋の中に入ると、ビニール袋を三つ持って来た。

「いいよ」

黒いヒゲのサンタクローは、

「分かったよ、いい子だ」

と言って、また陽太郎を抱き上げた。陽太郎はしっかりと三つのビニール袋抱き締めていた。道に出ると、雪は団地の道路一面に積もっていた。何処にも車らしき乗り物は見えなかった。

「何処にも、車はないよ」

雪は止む気配はなかった。明日の朝は思いっ切り雪で遊べると陽太郎はふっと考えた。

「車じゃないからね。今、呼ぶから」

黒いヒゲのサンタクロースは雪に覆われた空に向かって、ピヨヨ、ピヨヨと口笛を吹いた。

陽太郎も同じように雪が降る空を見上げた。目の中に雪が入って来て、冷たい。

すると、雪降る空の中に、動くものが見えて来た。それは、こっちに向かって、やって来た。

「あれは・・・何なの!」

すぐに、その乗り物は、陽太郎の目の前にやって来た。


「これは・・・トナカイ!」

陽太郎は空からやって来たソリを見て、驚いた。幼稚園にある絵本で見るのと同じだった。

「本当のトナカイなんだ」

「そうだよ。だから、言っただろう、私はサンタクロースだって」

黒いヒゲのサンタクロースは陽太郎を抱いたまま、ソリに乗った。

「さあ、行くよ」

黒いヒゲのサンタクロースは陽太郎を抱き締めている。

陽太郎は少しの間興奮していたが、やがて黒いヒゲのサンタクロースに抱かれているのが気持ち良くなってきた。

「何処へ、行くの?」

「後ろを見てごらん」

陽太郎は体を乗り出した。

「何も載っていないだろう。これから、みんなに配るプレゼントを乗せに行くのさ」

「何処へ?」

「サンタクローの館さ」

(そんな館・・・何処にあるのかな・・・?)

陽太郎はだんだん眠くなってきた。無理に起きていようとするのではなく、少年は・・・このままいたい、と気持ちだった。それでも、陽太郎は自分の気持ちを伝えようと、

「僕・・・これを友たちに配りたいんだけど」

「あっ、そうか。そうだね。いいよ、必ず陽太郎の友だちの家にも行くようにする、約束する」

ゆうはこくりと頷いたが、もう夢の中で遊んでいた。


城倉美千代は、

「ゆう」

と、部屋前で声をかけた。

返事はなかった。もう寝たのかな、と思った。ガラス戸が開く音がしていたので、見に来たのだった。

陽太郎の部屋の中に入ると、誰もいなかった。見ると、窓のカギは開いていた。

⌒あの人が来たの!そして・・・)

美千代は、

⌒ふふっ)

とほほ笑んだ。

⌒あの人は、あの子を連れて行って、何をするつもりなの!何を教えるつもりの!)

美千代は窓際の学習机の椅子に座った。少し、大きい。陽太郎はまだ五つだった。体が同じ年ごろの男の子より小さい。でも、ゆうはこれがいい、と言った。

窓には雪が吹き付けていた。

「あなた・・・あの子に風邪を引かせないでね。そして・・・来年ことは、私に会ってね」


その少し前、

黒いヒゲのサンタクロースが陽太郎を家から連れ出す前まで時間を戻す。

「警視正!」

警備の警察官が走って来た。

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