【未】8.あの時、君は。

君との出会いはサークルの合コンだった。

あの日、互いに口下手な僕たちはおひらきする前に少しだけ会話をした。


「…私ね、観葉植物が好きなんだ。」

『観葉植物… か、かわいいよね。』

「うん。」

『それに… かっこよくもあるよね。』

「うん。」

『僕も… 好きだな、観葉植物!』

「…うん!」


それから観葉植物を通して僕たちは連絡を取るようになり、

ほどなくして付き合うことになった。


ある日、彼女の誕生日を祝うべくサプライズパーティーを決行した。

友人に協力してもらい、建物そのものを貸し切り、

誰の邪魔も入らないよう入口で彼女の荷物をあずかった。


それが ことの発端ほったん

いや… への一歩いっぽだった。


キュイィィィイィィイィン

二人きりの空間に何処からかサイレンの音が鳴りひびいた。

「あ… ちょっとごめんね… すぐ戻るから…。」

そう言うと彼女は非常口から外へと出て行った。


それから数分がち、戻ってこない彼女を不審ふしんに思い様子を見に行った。

彼女は非常階段の途中でぼーっと空を見上げていた。

そんな彼女に僕はなぜか気味きみが悪くなり、

その場を離れようとしたが、大きな足音を立ててしまった。

こちらに気づいた彼女の目には–––––


ザザッ…

    ザ…ザザッ…

~~~~~~


『アンタなんか生まれてこなければよかったのに。』

忌子いみこ


『なんで私なの!? アイツにしてよ! ねぇ!!』

神隠かみかくし。


『準備が整った。作戦を開始する。』

終。終。終終終。


キュイィィィイィィイィン

まただ。

消える、全部全部ぜんぶ。

親も、同級生も、あの人たちも。


いやだ。

いやだよ…。


~~~~~~


「今日はありがとう。あのね、私手紙書いてきたんだ。感謝の気持ち。」

『そうなんだ。…なんだか照れ臭いね。』

「ふふっ… かばんに入れてあるから、あとで渡すね。」



–––更地さらちになった校舎、瓦礫がれきの山をあさると、

ボロボロになった鞄の中から薄汚うすよごれた手紙が出てきた。

ふうけ、中身を取り出し読んだ。


『うぅ… ごめん… ごめんなサチ…。』

おさえていた涙腺るいせんが崩壊し、涙が勢いよく流れ落ちた。

泣いて、ひたすらに泣いた。


これは誰からも愛されなかった彼女をが愛した話。

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