魚、嘲笑う

魚が笑った。

エサにぱくっと食らい着いて、にやりと。

(そんなはずはない)

僕は位置のずれためがねを掛けなおし、もう一度水槽の中を見た。

魚は僕に尻の方を向けて悠々と泳いでいる。

水槽の反対側のガラスにぶつかれば、

方向を変えてもう一度こちらを向くはずだと思って待っていたが、

魚は反対側のガラスを口先でつんつんと突っつき、

こちらに尻を振っているようにも見える。

まるで馬鹿にされているみたいだ。

業を煮やしてもう一度エサを上から振ってみると、

魚はふらふらと体をねじりながら水面辺りを目指して泳ぎだした。

僕はその様子をじいっと観察してみたが、

魚の顔は意思性を欠いた無機的なものにしか見えなかった。

やはりただの見間違いだ。

僕がそういう風にあきらめて水槽から離れて別の事をしようとした時、

視界の端っこでまた、

魚が笑った。

僕はあわてて振り返ってみたけれど、

魚は澄ましているのか、あるいは何も考えてないという顔をしていた。

僕は何度か水槽から離れる振りをしたり、

余所見をする振りをして、

魚の様子を伺ったが、

結果は同じだった。

その後はあきらめて気にしないようにしてはいるけれど、

時々、水槽のほうから見られているような気がして思わず見てしまう。

案外と人を食う、利口な魚もいるのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る