あるライオンの絶望について
あるサバンナの真ん中で、
一匹の雄のライオンが希望をなくして佇んでいた。
番いの雌が死んでしまったのだ。
彼はもうライオンとしては随分生きて来た方で、
そのサバンナの中ではどんな暴れ者も一目置く程の長老の域に入る。
その彼が、悲しみに捕われて身動きもしなくなってしまった。
長い間連れ添った伴侶を失った寂しさの現れなのか、
彼は数日の間手当り次第に近くの木に齧りついていた。
元々あまり豊富とは言えないサバンナの木々は、
かなり広い範囲でライオンに咬み疲れてボロボロになった。
サバンナに住む獣たちはその荒々しい姿を見て、
年老いたライオンがまるで昔の姿を取り戻したようだと噂した。
それが何日も続いて、
気が付いた時にはライオンの牙はすっかりすり減ってしまって、
彼はもう何かに噛み付く事さえ出来なくなってしまった。
そして今度はあらゆるものを爪で引っ掻き回し、
数日後には爪が剥がれ、
指先は皮が剥けて血まみれになり、
そうして彼はようやく大人しくなったのだ。
絶望がひたひたと年老いたライオンの心を締め付け、
彼は歩く事にすらひどく疲れを覚えるようになった。
ライオンはサバンナの真ん中に佇み、
彼の生まれ育った大地を眺めた。
太陽が地平線の向こうに沈んでいくのを、
目を細めてじっと見ていた。
そうやって他に何もする事もなくなって初めて、
彼は世界の美しさに気付いたのだった。
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