役目

 地上、城門前の戦いは意図せず形成が逆転しつつあった。

「まさか城内にまで多くの魔物が潜んでいるとは……」

 黒帽子の魔法使いが苛立たしげに呟く。はじめに外に大勢の魔物で待ち受けたことから、城の中は手薄と踏んでいたらしい。だが中に配置していた魔物によって兵士達が次々と敗れ、予想以上の戦力を送り込んでしまった。その結果、今度は外の戦力が不足している。すでに罠はほとんど尽きたがそれでも戦況は十分互角だった。

「諦めて帰ってくれるなら助かるんだが」

「何を、魔物風情が!」

 俺の本音を挑発と受け取って、槍使いが激しい攻撃を続ける。紙一重で躱すのもそろそろ限界だ。こちらからも仕掛けなくては。

「邪魔だ」

 魔弾を放出。防御に槍を使った隙に女を押し退ける。そして再び魔法使いの方へ向かう。襲いくる炎弾を手で払う。軽く火傷を負ったが気にせず進む。

「お前の相手は私だ」

 槍使いが態勢を立て直して俺を追いかける。それでも俺は魔法使いの方に向かって魔弾を撃ち込んだ。

「くっ、この数は……」

 炎弾を上回る数で攻撃するが、相殺できない分は避けられた。まだまだ足りない。同じ方向に次々と撃ち込む。

「隙を見せたな。魔物」

「だから、此方の台詞だ」

 不敵に笑う槍使いに振り返る。その俺の背後から、無数の魔弾が降り注いだ。

 油断していた槍使いは不意に飛んできた魔弾を受けきれなかった。数発食らって倒れたところを狙って、腕に牙を立てる。

「うっ……」

 女の血を吸いとって意識を奪う。それ以上には吸っていないし、傷口は小さい。放っておいても死にはしないだろう。

「よくもリザを!」

 黒帽子の魔法使いが魔力を溜め込む。何か大技を狙っているようだ。だが、立っている位置が悪かった。

「うまく防御しろよ」

 と助言して、その足下に魔弾を放つ。白帽子の魔法使いが正面に盾を張るが、弾はその下を通り抜けて地面に当たる。その瞬間、魔法陣が爆発した。

「きゃああ!」

 二人の魔法使いはその場に倒れる。俺は黒帽子の魔法使いに近づき、また血を吸った。

「あなた、よくも……」

「安心しろ。二人とも死んではいない」

「吸血鬼。私の血も吸うつもりですか?」

 白帽子が倒れたまま俺に尋ねる。

「いや、お前にはまだ役目がある。しばらくそこで寝ていろ」

 回復するにもまだ時間がかかるだろう。それにこいつは補助系の魔法使いだ。一人だけ立ち上がっても問題はない。

 それよりも、残りの兵士を片付けなければ。人間の血を吸うことで少しは体力を回復できた。

「ゴブリン。聞こえるか。魔物を全て城の中に入れろ。外の敵は俺がやる」

 ロックの能力を使って聞いていると信じて、一人で喋る。

 やがて魔物達は一斉に城に向かい始めた。俺は最初と同じように門の前に立つ。

「これ以上、敵を俺達の家には入れさせない」

 俺を取り囲む兵士達を前に啖呵を切る。疲労も怪我もあり、バッカスほど頑丈でもない。俺はここで死ぬのだろう。そこに怒りや悲しさはなく、役目を果たした満足感だけがあった。

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