再起
私達は城内、会議室に篭っていた。
「侵入、された」
「レイ。第一部隊をぶつけてください」
ロックが敵の侵入を感知し、ゴブリンが指示を出す。魔物達を数体ずつ分けて配置しているのだ。とはいえあまり強力な個体はいない。数で圧されている以上、いずれはここまで到達される。
「私も出る。ラウラ、予定通りに」
「分かったわ。行きましょう、リン」
ラウラがリンの手を握って部屋を出る。敵に見つかる前に少しでも離れさせるためだ。普段は一階しか使っていないが、城というだけあって上階もある。最悪の場合は屋根の上まででも逃げてもらわなければならない。
「メル。お気をつけて」
ゴブリンの言葉を背に受けて、ラウラ達と逆の方に歩く。私は単純な強さならバッカスは疎かゼクスやユーマにも敵わない。でも、何百年も生きてきた経験と、おそらく世界一の魔法使いの自負がある。雑兵相手に負けはしない。
皆と分かれ、リンを抱いて階段を駆け上がる。
「ねえ、ラウラ。皆、大丈夫だよね。また会えるよね」
不安そうに尋ねるリンに、私は答えられなかった。勇者と相対するユーマ、入口を守るゼクス、城内の皆。すでに覚悟を決めているのだ。
「がう、がう!」
「え、あ。ケルベロス!」
リンを抱える私の後ろに、ぴたりとケルベロスがついてきていた。急かすように吠えながら、背後を離れようとはしない。
「あなたもリンを守ってくれるのね」
「がうっ!」
一際大きく吠える。心強い味方だ。水辺じゃない城内なら私と比べるまでもなく強い。
共に階段を駆け上がるが、その最中に足元が大きく揺れた。
「きゃっ!」
思わずよろけて手摺りに掴まる。戦闘が激しくなっているのだろう。同時に、脳内にある命令が届く。レイの交信だ。身を隠せ。
「リン、こっちに」
止まった階の一番近い部屋に入って扉を閉める。ベッドや机、クローゼットといった家具があるだけの質素な部屋。インベルが使っていた部屋だった。彼は初めアニー以外の者とは距離を置こうとして、あえてこんな上階に一人でいた。
「リンは机の下に。ケルベロス、おいで」
侵入者に備えてケルベロスと共に扉の方を見る。足音が徐々に近づいてきた。リンのいるこの部屋で待ち受けるべきではないか。
意を決して扉を開け放つ。ちょうど先発の敵兵が上がってきたところだった。
「ケルベロス。ゴー、ゴー!」
「ぐるるるる、がぁう!」
待ってましたとばかりにケルベロスが敵に向かう。意表を突いて頭の一つで兵士の剣を噛み砕き、残りの二つで腹と左足に噛みついた。
リンがうまく躾けて、ユーマが鍛えていたおかげでケルベロスは兵士達とも戦えていた。これならまだしばらく保つだろう。そう思い、油断していた。
「いたぞ! 魔物だ!」
廊下の反対側からも敵が迫っていることに気づけなかった。向こうに階段はない。魔法で飛んできたのか。
ここでは私の戦闘力は皆無だ。それでもリンを守る盾くらいには。
「ぐっ……!」
「おい、どうした!?」
覚悟を決めたその時、敵兵の一人が突然倒れた。その首には一本の矢が刺さっている。
そうだ。ここはインベルの部屋の前。となれば、隣の部屋にいたのは。
「あなたの望むものは何?」
無数に生まれる漆黒の人形、その後ろにアニーが立っていた。
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