全貌

 先代の魔王が死んでから、俺はこの時、この状況を作るために動いてきた。

 どうすれば魔王、つまりリンが少しでも長く健やかに生きていくことができるか。

 人間の世界に返すことも考えなかったわけじゃない。ただ、一度捨てられた人間が幸せに暮らしていけるとは思えなかった。善良な人間に拾ってもらえる確率はどれほどだろう。一度手放してしまったら、魔族の我々が取り返すことは難しい。

 だから魔王が生き延びる方法を考えた。その可能性自体はすぐに思い当たっていた。伝承にあるのは、勇者と魔王が相見えて平和になる、ということだけ。今まではそこに至るまでの経緯から戦わざるを得なかったのだ。


「だから代役を立てる。相手は誰も魔王の顔を知らないんだ。魔王の鎧さえ着ていればそれでいい。元々俺がやるつもりだったが……」

「それを俺にやれってのか」

 ユーマが城を出ていった日、その直前に話をした。

「そうだ。お前を仲間にしたのは、もし俺が途中で死んだ場合に魔王の代役をしてもらうため。魔族と渡り合える強さを持ちながら勇者もこの世界の人間も恨んでいる人間などそういないからな」

「ふざけんじゃねえ!」

 ユーマはそう叫んで出ていった。魔王の代役をする、その意味が分かっていたのだろう。


 そして出ていったユーマを探す途中、勇者と出会い、戦いながら話をした。

「まずは伝承のおさらいからだ。魔王が全ての魔族を統べると刻、異なる世界から一人の人間が現れる。其の者は魔を滅する剣を抜き、魔王と相見え、世界に平和が訪れる」

「知っている。それがどうした」

「つまり、お前は魔王と会うだけでいいということだ。伝承が正しければ、剣を抜いた者が魔王と会うだけで終わりだ」

「だから見逃せって言うのか。それで魔物に家族や友達を殺された人達が納得するとでも思っているのか!」

「それはこちらも同じことだ。更に言えば此度の戦争、仕掛けてきたのは人間の方だろう。それでも納得できないなら王宮の地下に行け。この世界の人間の闇を、自分の目で確かめるんだな」

 俺の言葉通りに勇者は地下に向かった。王宮に侵入者が現れたという噂を聞いて、結局俺も向かうことになったのだが。


 そして現在。

 城の前で戦う俺に、もう何の策もなかった。やるべきことは済んでいる。後はリンを守るだけだ。

「お前らはここで止まってもらおう」

 槍使いを魔力の弾で牽制しつつ、魔法使いに迫る。俺の拳を白帽子の魔法使いが魔法で防御し、黒帽子の方が炎弾を撃つ。こちらも魔弾で相殺すると、今度は槍使いが突っ込んできた。

「邪魔をするな!」

「此方の台詞だ」

 突き出された槍を躱して胴を蹴る。槍使いは数歩後ずさって魔法使い二人の前で止まる。

 さすがに強い。バッカスと違って俺では全てを受け止めきれない以上、躱して足止めするのが精々だ。

「リザ。ここは私達三人で抑えましょう」

「分かった。全員、進め! 私達が道を開く」

 槍使いが再び俺に攻撃を繰り出す。その隙に正面の魔物を二人の魔法使いが打ち倒していく。

「やはりそうなるか……」

 罠と魔物を突破した兵士達が城に侵入する。この展開も予想はしていたが良い手は思いつかなかった。城内のことは、奴らに任せる他ない。

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