決戦
不思議な光景だ。
俺は魔王城の門前に立ち、背後を見る。視界を埋め尽くすほどの魔物が集まっていた。魔族の俺でも見たことのない数だ。人間がこれを見たら、どんな反応をするだろうか。
「なあ、人間達よ。どんな気分だ?」
正面に向き直る。そこには、魔物に負けず劣らず大量の人間がいた。勇者とシンクはいないが、いつも勇者に付き従っていた槍使いと魔法使い達は先頭に立っている。
向こうにも、全体をまとめる指揮官はいないようだ。数十人ずつ固まって、それぞれに部隊長がいる。
「本当に最前線で戦うのですか。それよりリンについてあげた方が」
「いいんだ。お前も早く下がれ」
ゴブリンはまだ何か言いたげだったが、結局引き下がった。それでいい。メルも罠を仕掛けて城の中に戻っている。後は俺の役目だ。
互いに陣形を整えて、暫しの沈黙。そして。
「行けーー!」
「進めーー!」
ばらばらな号令、次いで大勢の怒号が飛んだ。対する魔物達も多種多様な叫び声や唸り声を上げて前進する。
主役のいない大一番が始まった。
俺は一人、静かな孤島に降り立つ。着慣れない鎧を身に纏い、一歩ずつ進む。
やがて一人の男が現れて俺と向かい合う。
「さて、やるか。勇者よ」
「ああ。魔王よ」
互いに剣を抜く。もはや言葉はいらない。俺は勇者が憎い。勇者は元の世界に戻るために魔王を倒したい。それだけでいい。
「--はぁっ!」
同時に地面を蹴り、剣を振るう。一瞬の鍔迫り合い。そしてまた退いてはぶつかる。初めから魔法も剣術も全力を出し、互角の勝負を繰り広げる。
「さすがに、強いな」
刃を交えて勇者が呟く。それはこっちの台詞だ。最初に戦った時は素人だった癖に、戦う度に信じられないほど強くなっている。剣の扱い、動きの無駄のなさ。普通ならこんな短期間で出来ることではない。さすがは勇者というところか。
「上等だ」
奴が強くなっていることなんて今までに十分分かっている。それでも、今日で全てに決着をつける。
魔王城の周辺には、メルの仕掛けた魔法の罠がある。
「ぐあっ!」
一つは爆発の魔法陣。少しでも踏めば爆発する。しかも魔法陣そのものは見えないように不可視の魔法がかけられている。数を重視した分威力は低いが、怯んだところを魔物達が襲いかかる。
さらに空中には反発の魔法陣がある。当たった物をなんでも跳ね返す魔法。一回きりだが矢でも魔法でも撃った者へ返っていく。爆発を恐れて遠距離攻撃に頼ればこちらが牙を剥く。
地の利があるおかげで現状は優勢に戦えている。とは言っても罠が尽きるまでの話だ。
「貴様が魔物の親玉か」
荒れる戦場を抜けて、三人の女が現れる。槍使いと魔法使い、勇者の仲間達だ。
「まあ、この場においてはそうだ。お前らもそうだろう」
「そうですね。勇者様は必ず魔王に勝ちます。だから私達も貴方を倒します」
魔王を倒す、か。本気で言っているならば、勇者は俺が話したことを誰にも伝えてないということだ。計画は順調。ならば。
「そうはいかんぞ」
俺も俺の役目を果たそう。
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