早天

 会議室で一服した後、リンはすぐに眠ってしまった。俺達が戻った時点ですでに深夜だったから当然だが。

「家出の理由はゼクスの計画かしら」

「家出って言うな……。お前ら皆知ってたのか?」

 リンを自室にねかせて、残った幹部で再び話し合う。俺の質問にゼクスは目を伏せて答えた。

「俺は、リンを死なせはしないと言っただけだが」

「たぶん、ちゃんと分かってるのは私とゴブリンくらい。ラウラもなんとなく分かってたみたいだけど」

「さすが大魔法使い様」

 少しふざけて茶化すと思いっきり睨まれた。

 一息ついてゴブリンが仕切り直す。

「ユーマも戻ってきたばかりですが、もう最終局面まできてしまいました。人間側の準備が整ったようです。おそらく明日にでも攻めてくるでしょう」

「それに加えて、勇者の相手だ。俺がやってもいいが……」

「俺がやる」

 ゼクスの言葉を遮って俺が告げる。

「いいのか?」

「ああ。お前はこっちを守れ。全部そのためにやってきたんだろ」

 ゼクスの計画はこの後控える最終決戦にあり、その目的はその後の平和にある。

 だが、ここに至るまでどれだけの魔物が犠牲になるか、誰が生き残っているかが分からなかった。だから細部までは詰められていない。

 それから二時間、日が昇り始めるまで俺達は戦略を練った。


「……て。起きて。起きてってば!」

「んん……」

 騒がしい声に目を覚ました。いつのまにか眠ってしまったらしい。頭を上げると、膨れた顔で立つリンと俺と同じように今起きたという様子の皆がいた。

「もう、皆で夜更かしして。私も混ぜてよ」

「お前は一番に寝てただろ」

 言いながら伸びをする。座ったまま寝ていたせいで体が痛い。睡眠時間も三時間程度だ。決戦の日だというのに、絶好調とは言い難い。

「とりあえず、朝食にしましょう」

「そうね。リンちゃんもおいで」

 ゴブリンとラウラに促されて鈍い動きで飯を食べた。

「ねえ、皆で何の話をしてたの?」

 とリンがずっと気にしていたがラウラとメルがなだめてなんとか落ち着いた。

 その後は慌ただしく戦いの準備を進めた。レイが大陸中の魔物を城の近辺に集め、メルが魔法で罠を張る。

「こちらの準備はレイとメルに任せておけばいい。それより、お前はお前で準備があるだろう」

 ゼクスに言われて、俺はリンと話をすることにした。

「ちょっと付き合ってくれるか、魔王様」

「うん? いいよー」

 と事態を全く理解していない魔王様は軽い調子で頷いた。初めの頃はこんなのでいいのか、と思っていたが今ではこうでなければと思ってしまう。俺も順調に毒されている。

 会議室を出て、適当な広間に移動した。たった一つ、リンにしかできないことを頼むために。

「魔王の鎧って出せるか?」

「うん。ちょっと待ってね」

 リンが目を瞑って集中すると黒い靄が現れる。靄は徐々に形を変え、漆黒の鎧になった。

 出せないとかやり方が分からないと言われたらどうしようかと思っていたので安心した。

「良かった。それ、俺に貸してくれないか」

 断られたりはしないだろうと踏んでリンに頼む。だが予想に反してリンは渋った。

「……また、戦いに行くの?」

「ああ。これで最後だ」

「じゃあ、ちゃんと帰って来てね。また皆でいられるよね」

「ああ。約束だ」

 そう言って鎧を受け取る。リンも納得してくれたようだ。約束、というのが効いたらしい。

 でも、俺はそんなに誠実じゃない。

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