決意
魔族による王宮への侵入及び破壊。前代未聞の事件に王都は騒然としていた。
「無事でしたか」
「勇者様!」
呼ばれて振り返るとシンクとリザがいた。包帯が巻かれたシンクの両腕は痛々しいけど新たな怪我はないようだ。
「ああ。あの二人は……、逃げられたか」
「面目ありません。私が見失った後、地下に逃げ込んでいたようで」
万全の状態ならともかく、今のシンクに奴の確保まで求めるのは酷な話だ。そんなことより、今は聞かなければならないことがある。
「地下のこと、知っていたのか?」
シンクは俯き、リザは首を傾げる。
「入ったことはありませんでしたが、存在は聞いていました」
「何の話ですか?」
「いや、もういい……」
分からなくなった。魔物は本当に倒すべきものなのか。俺は何も見えていなかった。見ようとしなかった。ただ言われるがまま魔物を敵と見做した。人を襲う化け物。そう聞いて、実際に元の世界では見たことのない、恐ろしい姿をしていた。
でも、地下で見た人間の方がよっぽど恐ろしく、醜かった。咄嗟にあの男の剣を止めたのは正しい行いだったのか、今では自信がない。
「今の人間が正しいとは、正直私も言い難いです。それでも戦争が始まってしまった以上、我々は戦うしかありません。ここを襲撃されてはもう止まれないでしょう。ちょうど船と人員の確保も終わっています」
「先ほど、明日には出発だと兵士達が話していました」
動き出した流れはもう止まらない。
俺達は奴らの仲間の赤鬼を殺した。悪魔と堕天使を倒すために人の心を壊すようなこともしたと聞いた。勿論、魔族に殺められた人間も数多くいる。人間も魔族も、もうとっくに引き下がれないところまできてしまった。
「そうか」
「何を他人事のように……」
「ああ。俺は行かない。別の用事がある」
二人が絶句して固まる。余計なことを言われる前に言葉を続けた。
「前回の勇者と魔王が戦った島に行く」
「貴方、まさか……」
「それなら私も行きます!」
俺のやろうとしていることに気づいたらしい。
「いや、一人で行くよ。終わったら合流するから先に行ってくれ」
それだけ告げて俺はどこへともなく歩きだす。これ以上話しても納得はしてもらえないだろう。それでも、一人で行きたかった。この世界の人間の偏見無しに、自分の目で見て考えるために。
城に転移して会議室へ向かった。ゼクスとその後ろを歩く俺の間に会話はない。俺はどんな顔して皆に会えばいいのか。城に着いた途端、そんなことを考えてしまって頭の中がいっぱいになっていた。
ゼクスは知ってか知らずかいつもの歩調で進み、すぐに会議室に着いてしまった。
「戻ったぞ。約束通り、な」
「おい、ちょっとは心の準備とか……」
「ユーマ!」
させろよ、と言い切る前にリンが飛び込んできた。受け止めて周りを見渡す。ロックとレイは何を考えているのか分からない。ラウラは微笑み、メルは無表情。なんともいつも通りの光景だった。
「もう、心配したんだから。家出しちゃ駄目なんだよ! 私だって一回しか外に出たことないのに」
「家出って、お前……」
そんな軽い言葉で片付けないでくれ。
「リンちゃん、いつまでも抱きついてないで座りなさい」
「二人もとりあえず座れば?」
ラウラとメルに言われて、すごすごと席につく。
「ゼクス、ありがとね」
「約束だからな」
当然のように受け入れられて拍子抜けしていた俺には、リンとゼクスの小さなやりとりは聞こえなかった。
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