脱出
天井を壊し、壁を斬って王宮から脱出した。
地上に出ると、数えきれないほどの兵士が待ち構えていた。
「見ろ。お前が馬鹿なことするからだ」
「お前のせいだろ。俺の潜入は完璧だったぞ」
「よくそんなことが言えるな。シンクにも見つかっていただろうが」
「なんで知ってんだよ!」
こいつ、どこから見てたんだ。話している間にも兵士達がじりじりと距離を詰める。
「逃げるにしても、とりあえず戦うしかないか」
二人並んで正面を向く。俺は力尽きるまででも戦うつもりだったがゼクスはどうしても俺を逃がそうとしている。その理由は気に入らないが二人揃ってここでくたばるわけにもいかない。
「行くぞ」
俺が敵に突っ込むと同時にゼクスが魔力の弾を撃ちこむ。それに当たって体勢が崩した奴らを俺が蹴散らして道を切り拓く。それ以上は相手にせず逃げ出した。
「追え!」
「数人で固まって動くんだ。見つけたらすぐに連絡しろ!」
叫ぶ声を背に、ひたすら走る。
「逃げきれるのかよ。戦った方が早くないか?」
「やめておけ。いくらでも出てくるぞ」
「じゃあどうするんだよ。はるばる城まで走る気か?」
「王都を抜けた先に隠れ家がある。そこまで行けばメルに伝わるようになっている」
そんなものまで用意していたのか。ロックでもここまでは見通せないはずだから、こういう時のための奥の手というわけだ。
「いたぞ! こっちだ!」
正面から兵士が数人現れて道を塞ぐ。剣を伸ばして横一閃に切り込むと一人だけ屈んで躱した。ゼクスが弾を撃って兵士の鎧を一部破壊し、露わになった腕に噛みつく。
「う、あ……」
血を吸われた兵士は老人のように萎んで倒れた。
だが声を聞きつけてさらに背後から敵が迫る。追いつかれないよう、再び駆け出した。
それ以降、交戦することもなく王都を出ることができた。魔法で身体能力を高めた俺とそもそもの能力値が高い魔族のゼクスだ。当然と言えば当然だが。
「で、隠れ家ってどこだ?」
「森の中だ。ついてこい」
近くの森に入る。ここには魔物はいない。王都を抜けたと言っても、この大陸は人間の領土だ。魔物の助けは得られない。
「お前、本当に俺を連れ戻すためだけにここまで来たのか?」
森を歩きながら尋ねる。ひとまず追手は撒いたようで余裕が出てきた。このまま城に戻ってしまえば、結局ゼクスの考えた計画どおりに進むことになる。その前にもう一度話しておきたかった。
「お前を連れて帰るとリンに約束したんだ。まあ、偶々勇者と会ったから話はしたが」
「そうかよ。やっぱりお前の考えは変わらないか」
「当然だ」
とゼクスがはっきり答えた。
「あの地下のことも知っていたんだな」
「ああ。実際に見たのは初めてだったが、魔物が捕われそうな所を何度か助けているうちに存在は聞いていた」
他の幹部連中に言わなかったのは、暴走させないためだろう。こいつは一人で、怒りを抑えて冷静に対処してきたのだ。
「なんでそこまでする。お前らがリンを大事にしてるのは分かるけど、それだけなら他にも方法はあるだろ」
今までに聞いた話では、捨て子だったリンを先代魔王が拾って、魔族で育ててきた。そして皆がまとまるための象徴的な意味合いで魔王にした。でもリンを助けることだけ考えれば魔王になんかしないで、何処かの人里に置いてくればいい。他の奴らは親心が芽生えてそんなこと考えもしなかっただろうが、こいつなら思いつかなかった、なんてことはないはずだ。
「それでは魔族がまとまらない。いくら個体としての能力が人間より高かろうと、ばらばらに戦っては一方的に狩られるだけだ」
ゼクスがそう言った時、ちょうど前方に小屋が見えた。あそこに着いたらメルと連絡がつく。
「だから、吸血鬼は滅んだ」
「え……?」
聞き間違いかと思った。意識が小屋の方に向いていたせいかと。ゼクスはそれ以上何も言わず、小屋に入った。
慌てて後に続くと、すぐさま転移の光が俺達を包みこむ。
「詳しいことが聞きたければ後で教えてやる。今はとにかく戻って休め。……お前には、まだ大仕事が残っているんだ」
言い返す暇もなく、俺達は小屋から消え去った。
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