捜索
リンとの約束を守るために、変装をして人間の街を歩く。俺は翼もなく、体格も人間と変わらないので、帽子で角さえ隠せば紛れるのは容易い。
とはいえ、あまり人間と接触するのも危険だ。自分の正体がばれる可能性もあるし、探しているユーマは元勇者候補だ。知り合いなんかを引き当ててしまったら面倒なことになる。
そこで様々な街を移動しては酒場や集会所で噂話を聞いてきた。そこで得た情報は二つ。軍の再編成が上手くいっていないこと。そしてその原因の一つは軍人や貴族が何者かに襲われていること。
「やはり王都か……」
おそらく要人暗殺を行なっているのはユーマだ。勇者の居場所を聞くためか、戦いを終わらせるためか。どちらにしても王都に行かなければ始まらない。
翌日、早速王都に転移した。
襲撃を受けたという噂は事実のようで、街中を兵士が巡回していて今まで以上に身動きが取りづらい。
しばらく街を歩き回り、巡回の人数や範囲を調べることにした。
当然ながら王宮へ近づくにつれて警備の人数は増えていく。そして王宮の外周は等間隔に兵士が構えていて、物々しい雰囲気が流れていた。
これではユーマも侵入できない。やはり探す場所を変えるべきか。潜んでいた路地裏から引き返そうと振り向いた時。
「まさかこんな大胆な手でくるとはな」
目の前に勇者が立っていた。迂闊だった。兵士には警戒していたがまさかこんな所で勇者と遭遇するとは。
「何を言っている。誰かと勘違いしていないか?」
「間違えないさ。お前とは一度戦場で遭っただろう」
勇者が背中の剣に手をかける。さすがに誤魔化しようがないか。だがこれはこれで好都合だ。
「こんな所で戦うつもりか? まあ俺はどれだけ被害が出ようが興味ないがな」
「……くそっ、卑怯な」
「ついてこい。相手をしてやる」
俺が歩き出すと、少し迷って勇者もついてきた。これでいい。予定より大分遅れたが、ようやく勇者と話す機会を得た。
王都を出て近場の平原に着いた。人間も魔物も、邪魔する者はいない場所だ。
「ここまで来ればいいだろう」
勇者が剣を抜く。魔を滅する剣。魔族の俺では触るだけでも皮膚が溶けると言われる最悪の武器。
「そうだな。ここなら誰にも聞かれずに済む」
「なんだと?」
勇者には俺の言葉の意味が分からなかったらしい。それも無理はない。まさか対話を求める魔物がいるとは思ってもみなかったのだろう。
「俺はずっとお前を探していた。正確には勇者を、だが」
それが誰かなんてどうでもいい。勇者という役割を与えられた人間と話すことが目的のために必要だった。
「何を言ってんだよ」
剣を構えた勇者が迫りくる。俺は魔力の弾を飛ばして迎撃した。もとより黙って聞いてもらえるとは思っていない。
「まずは伝承のおさらいからだ。魔王が全ての魔族を統べると刻、--」
俺は全力で対話を始めた。
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