覚悟

 部下に指示を出しながら、両手の短剣で魔物を倒す。

「怯むな! まずは周囲の魔物を片付けろ!」

 私の部隊はすぐに円を作って背中を預け合う。彼らは大丈夫そうだ。問題は、残りの借り受けた大部隊の方か。

「勇者はいますか」

「ここだ。どうする、シンク」

 魔物を斬り倒して勇者が答えた。もはやこの程度の魔物では相手にならないらしい。頼もしい限りだ。

「理由は分かりませんが、鬼と船を壊している敵はまだ動きません。今のうちに態勢を立て直して雑魚を減らしましょう」

「了解だ」

 それだけ言って勇者はまた戦いに戻る。いつも通りにリザ、セナ、レナの三人も一緒だ。鬼さえ追い詰めた彼らがいれば戦力的にも十分だし、士気も上がるだろう。

 そう、問題ないはずだ。意表を突かれただけで、冷静に見れば数でもこちらが勝っている。なぜ奴らはこの戦力差で打って出たのか。その時、また船の破壊される音が聞こえた。

「そうか……、全隊、退け、退け!」

 奴らの狙いは勝利ではない。船の破壊、そして兵隊だ。船だけなら余所から回せばまだある。しかしそれを動かす頭数が揃わなければ当然出航はできない。奴らにとってこの戦いは、少しでもヤンク大陸への攻撃を遅らせるための戦いなんだ。

 もっと早く気づくべきだった。鬼の強さを見せつけられ、魔物と交戦して、兵士達はもう引き下がれなくなってしまった。恐怖を打ち払うべく目の前の魔物の相手をしている。私の指示も届かない。

 そして、恐怖の源が地面に降り立つ。私も覚悟を決めなければならないようだ。


「これで終わりだ」

 最後の一隻を斬って沈めた。集められた船を全て壊して、浜辺に跳躍する。

 すでにゼクスとバッカスは戦闘に加わっていた。数十体いた魔物はもうほとんど残っていない。合流するとゼクスが文句を言ってきた。

「のんびりしすぎだ」

「悪かったな。船は全部沈めておいた」

「よし。もう少し働いてもらうぞ」

 再び別れて軍隊と戦う。俺は魔法で剣の大きさを変えてまとめて薙ぎ払い、ゼクスは魔力の弾を撃ち、バッカスは拳で吹き飛ばす。魔物が減った分、俺も周りを気にせず戦線に加わることができる。まだ戦況は悪くない。雑魚相手なら何人いようと俺達で撃退できる。

 問題は勇者の一団とシンクだ。奴らが魔物を倒し切るまでに、どれだけ敵の人数を減らせるか。

 一振りで三人。もう一振りで二人。そこに魔法が飛んできて剣で防ぐ。続いて槍使いの女が突進してくる。横からゼクスが魔弾を撃つのが見えたので槍使いを無視してまた兵士を狩る。魔弾に止められた槍使いはゼクスに狙いを変えようとしたが、すでにゼクスは離れていた。

「こいつがいるってことは……」

 あの槍使いがいるなら勇者も近いはずだ。もう魔物は残っていない。今は……。

「バッカス!」

 辺りを見回すと少し離れた所で戦っているバッカスを見つけた。そしてそこへ向かう勇者の姿も。

「させるか!」

 勇者の方へ突きを繰り出す。魔法で長く伸ばした勇者のもとまで伸びる。しかし寸前で気づかれて剣で弾かれた。

「またお前か……」

 勇者が俺を見つけて鋭く睨む。さらにシンクがその隣に現れ、槍使いと魔法使い達も合流する。

 俺達も一度離れて三人並んだ。こちらの戦力は三人のみ。対して人間側は奴らを筆頭にまだ百人ほど残っていた。

「まだ結構いるな。どうする?」

「もう少し減らしたかったが仕方ない。退却だ」

 やはりそうするしかないか。船は全て破壊したからすぐに攻め込まれることはない。十分な戦果とは言えなくとも、急場は凌いだはずだ。

「……俺は残る」

 だが、バッカスは小さくそう言った。

「何言ってんだ。これ以上続けたら……」

「お前らは先に帰れ」

「おい、バッカス!」

 俺の制止を聞かず、バッカスは一歩踏み出す。人間側はそれを見て再び武器を構える。止めようと手を伸ばすが、その前にゼクスが俺の肩を掴んだ。

「好きにさせてやれ」

「そんなわけには……」

 と言いかけた時、俺とゼクスの体が輝き出した。メルの転移魔法が二人だけを包む。

「ユーマ、ゼクス。後のことは任せた。リンを頼む」

 その言葉を最後に、バッカスは駆け出していった。



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