多勢
「さて、こうして目の前に大軍がいるわけだが」
「さすがに圧巻だな。三等分にしても相当だぞ」
「だったら俺が半分くらい貰ってやろうか」
ゼクス、俺、バッカスの三人は、人間が用意した大船の上に転移した。
まだ人間には気づかれていない。船に見張りくらいは配置していると予想していたが誰も乗っていなかった。俺達を誘い出すのが目的としても不用心だ。ラウラを警戒しているからか。
好都合とばかりに大船から敵の陣営を眺める。するとそこに知っている顔を見つけた。
「勇者……、それにシンクもいる」
俺の声に二人が反応する。ゼクスはどちらとも会っていないし、バッカスもシンクを直接見るのは初めてだ。
「そうか。あいつがインベルをやったのか……」
「バッカス、さっきも言ったが奴らは放っておけ」
ゼクスが注意するがバッカスは返事をしない。ただ黙ってシンクを睨み続けていた。一対一の勝負でバッカスに勝てる人間はいない。それはシンクや勇者も含めてだ。だが今はそんな状況ではない。バッカスがシンク一人に集中するようなことがあれば、この戦いは終わりだ。
「行くか」
「おう」
短く言葉を交わしてゼクスと俺は別の船に乗り移る。その後、残ったバッカスは船のマストを力尽くでへし折った。
「おい、船が!」
誰かの声が響き、その場に待機していた全員が同じ方向を見る。そこには船のマストを持った屈強な男が立っていた。その頭には一本の角がある。あれが勇者達が言っていた鬼か。
鬼はマストを軽々と片手で持ち上げる。そのまま頭の後ろまで引いて一瞬止まった。おい、まさか。そんなことできるはずが……。
私の恐れを体現するかのように、奴はマストを投げ飛ばした。発射されたそれは、まっすぐ私達のもとへ向かってきた。
「総員、退避!」
大声を張り上げて後ろに跳ぶ。直後、マストが私の立っていた所に突き刺さった。その衝撃で逃げ損ねた兵士達が吹き飛ばされる。この一撃だけで、生物としての単純な力の差が分かってしまった。兵士達は完全に恐怖している。
さらに激しい破壊音が鳴った。鬼が乗っているものとは別の船が壊れる音だ。あの鬼以外にも厄介な敵がいるようだ。
悪魔を撃退したことによる油断、そして人魚を警戒して船を無防備に晒した結果だ。
船を壊して、ゼクスが合図を出す。城で見ているレイに向けたものだ。そしてレイから近くに潜む魔物達に命令が下る。細かい指示を出すにはレイが近くにいなければならないが、今回はただ一つの簡単な命令だけだ。
--人間を襲え。
そして魔物が現れた。木々の隙間から、海の中から、敵軍の足元から。肉食の獣や甲殻類や昆虫の姿をした魔物が至る所から人間に襲いかかる。
「おい、これじゃあ俺も出ていけないだろ」
「我慢しろ。知能のない魔物にお前と他の人間の違いを教えている暇はない。ある程度落ち着くまで待て」
ゼクスはそのままもう一つの船に戻った。バッカスと何か話している。暇になった俺は、先に残りの小船を壊すことにした。
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