睦月、夜みち

木子あきら

睦月、夜みち

 昼まの村は

 どこへいったろう

 こんなにしんとして


 それに

 山のきわだというのに

 凍った水のにおいもする


 ここは

 どこのあたりだったか

 あをと銀とでいっぱいだ

 わたしはどこをゆくだろう


 (あまりにあをく透明なために

  みなそこであるということが

  だれにもしられておりません)


 いまのは いつも

 北の集会所の

 おれんじ明かりで

 聞く声だ

 そんなふうに言った


 なるほど どうりで

 くちから真珠のあわが立つ

 しんじゅの泡はみなもにとどく

 水面でひかって星になる


 かとおもえば

 呼吸のたびに

 むしろ

 しずけさが

 肺までしみいるというのは


 (月さまなにも言わないけれど

  こちらをじいっと見ています

  くび曲げないでもわかります)


 うん そうだろう

 このひかりは

 みずの底まできてるもの


 しかしもう

 すこし凍りついている

 うすい雪と

 氷の不可思議だ


 どうして こう

 つめたいものの

 色というのは

 銀いろすぎて

 あをく澄むのか

 あをが濃ゆくて

 銀に似るのか


 なににせよ

 ここは いま

 昼まの村とは別なところだ


 (きりりとふるえて鳴りますが

  こわくはありませんでしょう

  じきに明かるむ睦月の夜みち)


 ほんとにそうなら

 ほうっていい


 じき しずけさに

 ひたった肺と

 水面の星が

 凍みたとしても

 それほど

 わるくないだろう

 

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睦月、夜みち 木子あきら @hypast

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