第6話 女神の褒美

「ふむ、桜が美しい」

「そうだね」

 結局、あの異世界に赴いた事実は何だったのだろうか。

 我々は、互いの首を打ち落とした直後に女神の元、要するに私が初めに呼び出された場に転位していた。

 女神は男神、即ち燕をこの世界に呼び出した存在の首を片手に私たちに膝をついた。曰く、私たちの戦いを参考に男神の首をとった、とのことだった。試しに少し私が切りかかってみたのだが、成程門前の小僧習わぬ経を読む、我々の使い流派に近い剣筋だった。

 こうして、女神は急に我々を読んで、我々が事故によって相討ちする前の時間まで戻してくれた。

 ふむ、そこまで来ると確かに夢であると思うだろう。しかしながら、これは夢ではないことは明確だ。

 何故なら、理由がある。

「それにしても、こっちの世界に戻ってから敵がないね」

 と燕が言う。

「ああ……それと同時に生ぬるい……」

 その通り、我々がこちらの世界に戻ってから、何とも敵が生ぬるい。命を懸けて敵と殺し合ってきた我々にとって、こちらの世界の剣士は全て雑魚であった。

 戯れに、こちらの世界に戻ってから様々な剣の達人と呼ばれる人間に決闘を挑んでみたが、いずれも私と燕に勝つことはできなかった。

 世界が何とも生ぬるく思える様に、思えてしまったのだ。

「今日も、ヤる?」

 燕が私の顔を見て、にこりと微笑んだ。

「……新しい木刀が来たからな……ヤるか」

 最近、生きている実感を覚えるのは燕との命を懸けた打ち合いのみだ。

 その時だけ、生きている実感がわいていた。

 そんなときである。


「初めまして、美作武蔵さんと京極燕さんですか?」


 なかなかに鋭い殺気が、後ろから来る。 懐に忍ばせておいた警棒で、空を切る。

「……ふむ、お見事です」

 そこにいたのは、生首だった。否、正確に言うと首だけの何かだった。

「何者だ」

 私がそう問いかけると、その生首のみの存在はじっと私を見た。

「我々の世界は戦争が止まりません、そこで、旧知の女神に相談したらあなたたちを紹介されまして……」

 その言葉を聞いた瞬間、私と燕のk心臓はドクンと動いた。

「刀がいる世界か?」

「敵は強い? 猛者?」

 同時に、口を開く。

「……如何にも」

 生首のみの存在は、そういった。

「なら、武者修行に行こうか。全て終わったら、この時間軸に返してもらえるか?」

「ぶち殺す敵はちゃんと教えてね」

 なんとも不思議なことだが、私と燕は喪さに植えていた。この生首の申し出は、渡りに船だったのだ。

「……なるほど、なかなかの猛者。いいでしょう、私が管理する世界は異世界から来た覇王によって苦しめられています。どうか、覇王を討ち果たしてください」

 お安い御用だ。

 私と、燕の刀があればたやすいだろう。

「むろん、行こう」

「うん、行こうか!」

 もう一度、異世界に行く。

 今度は殺し合いではない――彼女と共に武の極みに上り詰める!



          了

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異世界転生した恋人と殺し愛します 文屋旅人 @Tabito-Funnya

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