第4話 魔王燕

 魔王になって初めにしたことは、鍛錬だ。

 僕は刀を振る者としては、何とも非力な女だ。だからこそ、今までは技巧でごまかして来たしごまかせていた。

 だけど、魔王になったら今のままではだめだと悟る。

 きっと勇者になった武蔵は勇者としての技量を備えて僕と戦いに来る。それはもう運命的な確信だ。

 武蔵に技が備わったら、きっと今のままの自分は忽ちに敗北しその首を彼に差し出すだろう。僕はそれがわからないほど愚かじゃない。

 だから、今のうちに力を磨く。

「四天王、まとめてかかってきて!」

 魔王としてきたとき、初めに行ったのは四天王相手の真剣勝負。

 気が付いたら、四天王は死んでいた。

 魔王としての自分が強いのか、それとも四天王が弱いのか、それはわからなかった。

 これは駄目だ、こんな用意された猛者など試合にならない。僕はそう思って、武者修行の旅に出た。

 とりあえず、適当に村を襲う。

 非武装の女子供や優男には手を付けず、更には逃げる兵士にも手を出さず、僕を見て恐れなかった益荒男とのみ勝負を繰り替えす。

 そうしたら、数千人ほどの益荒男に勝利した。

 それでも、まだ足りないと本能が叫んでいる。

 きっと、武蔵はさらなる高みに上っている。僕は、恋人をそこまで信じることができる程度には乙女だ。

 いつしか、山を手だけで登りだした。

 力が足りない。より強い筋力だ。剛剣を抑えるだけの筋力が不足していることなど、わかり切っている。

 ストイックに鍛えなくてはならない。

 何故なら、僕は女だからだ。

 愛した男と戦うのに、弱いままでは失礼だろう。

 その程度の、礼儀はわきまえている。

「ほう、ここまで来たか」

 雲突く山を登った先にいたのは、老年の剣士。

 僕の先代魔王を葬った先代勇者の、従者だった男。

「……魔王として、貴方と存分に死合いたい。いいかい?」

 僕は刀を抜いて問いかける。

 男はにやりと笑う。

「武を知らぬ女子供、生きたいと願う無力なものを見逃す魔王よ、いったい何が目的だ?」

 剣を抜いて、勇者の従者は問いかける。

 答えなんて決まってる、たった一つだ。

「ただ、強くなるため」

 それしかない。

 きっと、 武蔵も強くなっているから。

「なるほど、面白い。では……命のやり取りを始めようか」

「うん、喜んで!」

 結局、僕と元勇者の従者は丸一日剣を打ち合った。

 最後に立っていたのは、僕だった。



          続く

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