第3話 勇者武蔵
門を出た先は、何かの間のようであった。
「お待ちしておりました、勇者」
目の前にはパッと見てもわかるほど、美しい女性がいた。
邪魔だ。
「失礼」
今は一刻も早く、この刀に慣れねばならぬ。
「えっ、ちょっと!?」
女性は戸惑っているようだが、関係ない。
今は一刻も時間が惜しい。
なるほど、この世界で私の体は元の世界よりも頑健になっている。
少なくとも、素手でクマを殺すほどの力は私にはなかったはずだ。
「力、速さ、硬さ……すべてが上昇しているのか」
腕が翼になっている人間の女性を模した怪物の首をボキりと折って、改めて自らの異常性を確認する。
「大丈夫だったか、少年」
「は、はい……ありがとうございます」
とりあえず、この鳥女が少年を殺そうとしていたから首をへし折ったが、結局この生き物がどんな生き物化はよくわからなかった。
「ここから、大丈夫か?」
私はとりあえず少年に問いかけてみる。
「はい、村はすぐそこなので」
少年はそのまま向こう側に走り出す。
「……もっと向こうか」
先ほどから、魔物を殺しながら魔王の場所を聞いているが、大まかな魔王が座している場所しかわからない。
ままならぬものだ。
刀を抜くまでもない雑魚を殺し、それでもなお道がおぼろげにしか出ていない。
なんとも、魔王が存在している場所というのは遠いものだ。
以前の世界においてRPGをやった感想としては、何とも親切設計だったなという感想しか浮かばない。
そうだ、確かに思えば魔王が座している場所は魔王側の最大の秘密のはずだ。厳重に秘匿するに決まっている。
「ならば、より殺さねばならない」
燕に近づくために、刀を握る。
召喚されてからおよそ二週間、素手で殺し刀で殺しだいぶこの世界に慣れた。魔法が存在する世界ゆえにどうなるかと不安だったが、魔法も所詮は武術と同じ。発動される前に殺せばいい。術式を唱えようとすると、自然に隙が見える。そのすきに首を刈り取ればいい。
手慰みに魔法をいくつか覚えてみたが、性に合わない。
魔法を一つ唱える好きに、四つは首をとれる。
「……この近辺の獣、殺すべきか」
すっと刀を抜く。
自分で砥石を使って研ごうとしたが、一切刃こぼれせず研ぐ必要すらなかった。超常的な存在が作ったのであろうか、折れず曲がらず摩耗せず。
剣士にとって理想的な刀だ。
素晴らしい、自分自身を研鑽すればするほどこの刀は答えてくれる。
「行くか、相棒」
いつしか、この刀は私にとって相棒となった。
不思議と、如何なる刀よりもしっくり着て、更に頑健。嫁だ。嫁としか言いようがない。それくらいに、素晴らしいと絶賛する。
そういえば、友人たちが読んでいたコミックに今の私の状況と似たようなものがあったことを思い出す。その時は、転生特典とやらを もらっていたが……なるほど、私にとっての転生特典がこの刀なのだろう。
「魔物狩りの御仁と見受ける」
刀に思いを馳せていると、後ろから声がする。
先ほどから、背後よりさっきがあったがその小体であろう。そう思って振り向くと……骨がいた。
「なるほど、確かに昨今この近辺で魔物を狩っているのは私だが、何か用かな骨よ」
それは、剣を持った骨だった。
剣を持って、虚ろな眼窩で私をにらんでいるつもりの骨である。
「いかにも、我が願いはただ一つ」
骨は剣を構えて言う。
「我が恋人のスライム、権助の敵討ちだ!」
まさかの女だった。
「やっ!」
踏み込みが甘い。
そんじょそこらの魔物よりかは強いが、動きが大雑把だった。
私は迷うことなく頭蓋を叩き割る。
ふむ……やはり技術が足りない。こちらの世界に来る前の私は、いわゆる剛剣使いであった。技術ではなく、万力の力で敵を叩ききる、そのような剣の使い手で会った。しかしながら、この世界ではそれが通じない。
力だけではない、技を身に付けねばならない。
何千、何百もの魔物を狩り、技術を身に着けねばおそらく魔王となった燕には勝てないであろう。
技術を身に付けなければ確実に敗北する。
結局、私はこうやって魔物を狩って鍛錬しながら、燕の居場所を探っていくしかないのだ。
続く
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