第6話〜お兄ちゃんの誕生日その1〜
sideマリアル
「行ったね。」
「行ったね〜。」
ガラス越しにお兄ちゃんがワープ?をして、家からいなくなってしまいました。
この前お兄ちゃんがいなくなった時は、コハルだけじゃなくて私も一緒に泣いてしまって、お兄ちゃんを困らせてしまいました。
「分かってるね、コハル?」
「らじゃー!」
コハルはそう言って、お兄ちゃんの作ったゴーレムさんと一緒に森へ入っていきます。私もそれを見て準備を始めました。
実は今日はお兄ちゃんの誕生日なんです。私たちのために何でもしちゃうお兄ちゃんだけど、自分には全く無頓着で、お兄ちゃんが無理をしてるんじゃないかって心配になります。
だから、今日は毎日の感謝の気持ちに、私たちでお兄ちゃんの誕生日パーティーをすることにしたんです!
今からお兄ちゃんがあまりの嬉しさに、私たちにあんなことやこんなことをするのが楽しみです。んふふ。
はっ!私はなんてことを。私たちは家族。お兄ちゃんとしていいのはお兄ちゃんの運命の人です。
それに、今はコハルがお兄ちゃんのために頑張ってます。姉として妹の手本にならなくちゃ!
私がやるのは飾り付けとご飯づくりです。お兄ちゃんが帰ってくる間に手早く終わらせなければ。
ご飯づくりは最近お兄ちゃんの料理の手伝いを毎日やっているので自信があります!
作ってみて初めて分かりましたが、ご飯づくりは凄くむずかしいです。
でもお兄ちゃんは毎日、朝昼晩私たちのご飯を一人で作っていました。きっとお兄ちゃんも辛かったと思います。それに比べて私たちはお兄ちゃんに甘えすぎです。これからも、お兄ちゃんの妹として、お兄ちゃんのお手伝いをしていこうと思いました。
だからこそ、お兄ちゃんに喜んでもらえるようなご飯を作ってみせます!
今日作るのはお兄ちゃんが大好きなカレーです!
本当に好きかは分かりませんが、お兄ちゃんはこの料理を食べていた時が一番美味しそうな顔をしていました。だから、この料理でお兄ちゃんの胃袋を掴んでみせます!
sideコハル
「行ったね。」
「行ったね〜。」
ガラス越しにユマお兄ちゃんがあっという間に家からいなくなっちゃった。
私の王子様はどんどん色んなことができるようになっちゃう。
でもそれが、ユマお兄ちゃんと私たちをどんどん離れ離れにしていくようで、複雑な気分。
この前お兄ちゃんがいなくなった時は、私はすぐに泣いてしまって、お姉ちゃんとお兄ちゃんを困らせてちゃった。
「分かってるね、コハル?」
「らじゃー!」
だから、私は日頃のありがとうを
「ゴーレムちゃん、行こ!」
これはユマお兄ちゃんが作ったもので私たちを静かに見守ってくれてる。それにとっても強くて、魔物さんたちを簡単に潰しちゃうの。
そんな見た目から、最初はゴーレムちゃんのことが少し怖かった。でも、私がゴブリンに襲われた時、このゴーレムちゃんがすごい勢いで駆けつけてくれて、狼をすぐに倒してくれたんだ。
だから、今はとっても信頼してるの。
こうやって、お姉ちゃんとユマお兄ちゃんには私は守られてばっか。だから、少しでもお礼をしたくてお姉ちゃんにも内緒でお花の首飾りを作る練習をしてたんだ!そして、お兄ちゃんたちに誕生日プレゼントに渡して、私はユマお兄ちゃんとお姉ちゃんからなでなでスリスリしてもらって、みんなで幸せになるの!
「ゴーレムちゃん、周りは頼むね!」
私が今いるのは湖から少し離れた森にあるお花畑。
ここは動物さんたちもいっぱい来るけど、ここじゃあみんな仲良し!
「あ、鹿さんこんにちは!」
「ンキィィィ!」
「あはは!元気いっぱいだね!」
鹿さんは私のほっぺを舐めるから思わず私は鹿さんを抱きしめる。
「温かいね〜。」
このまま寝ちゃいそう。でも、今はお姉ちゃんが頑張ってご飯作ってるし、お兄ちゃんも私たちのためにお仕事をしてるはず。私も頑張ろっと!
「鹿さん、今日も少しもらっていくね。」
そうやってコハルは花を少しずつつんでいく。
ただ、ここには違和感があった。
彼女が鹿と言っている生物はまたの名をダイヤモンドホーン。
その双角は、どんな物にも砕けない程の重さと硬さがあり、世界中の気に入った花を集める習性がある。
基本温厚だが、自身のテリトリーである花畑に押入り、その花をつんだその時は、烈火のごとく逆鱗し、対象の腹を突き刺し、その血と肉を、花の養分にすると言われている
「できたーー!」
「ン?キュキューーー!!」
「えへへ。大丈夫、鹿さんにもちゃんと用意してるから!」
「ンキュキューー!」
「あは、やめ、ふふ。ありがと。」
私の作った花飾りを鹿さんにかけるとまた、鹿さんにほっぺを舐められちゃった。でも、私の作ったものを喜んでくれるのはすごく嬉しくて悪い気なんて、全くしない。
「それじゃ、また来るね。ありがとう鹿さん!行こ、ゴーレムちゃん!」
「キュイィーー!」
コハルが去るのをダイヤモンドホーンはその目で見えなくなるまで見続ける。ダイヤモンドホーンにとっても、コハルが来るというのは嬉しいことであった。
ただ、そこに
「おいおい。ダイヤモンドホーンが現れるって言うから来てみれば、まさか、あんなガキとつるんでるなんてな。」
『立ち去れ。』
「あぁん?」
『ここは我の縄張り。今なら見逃してやる、人間のオスよ。今すぐ立ち去れ。』
「おいおいそりゃないぜ。あんなガキに渡して俺たちには花の一輪もくれねぇとはな。」
『コハルをガキ呼ばわりするな。あの子は私の盟友。あの子の侮辱は私の侮辱に等しいぞ。』
その瞬間、彼女の周りから絶大なオーラが発せられる。それはコハルと話していた時の弱々しい鹿のそれとは全く違う。
Aランクと呼ばれるだけの、いや、それ以上の覇気であった。
初めて男の顔から今までの余裕な表情は消え失せ額から汗が滲む。
「これは予想外だぜ。本当にA級か?A+級の間違いだろ。」
「リーダー。ここは引きますか?あのガキの行方も気になりますし、明らかに今まで戦ってきた魔物の中で一番強い。」
「いや、ダイヤモンドホーンの習性的に、今を逃したらもう出会えないだろう。・・・やるぞ。」
「「「らじゃ!!」」」
「ンキュイイィィィ!!!」
彼女は突進する。大切なものを守るために。
「ナターレ!!」
「えぇ!プロテクション!!」
そして激突。女魔道士が魔法を張ると同時にその壁と、ダイヤモンドホーンの角が激しくぶつかる。
「きゃぁぁぁ!!」
そして、押し勝ったのはダイヤモンドホーンだった。勢いは止まず、そのまま女魔術師の腹部突き刺さるかのように見えた。
「オラァァ!!」
「せいぃぃ!!」
『何!?』
「もういっちょう!!!」
「ンキィィィ!」
だが、後方で待っていた二人によって角は弾かれ、さらにもう一人の追撃で、彼女は大きく吹き飛ばされる。
「まずは視覚を狙え!視覚を潰せばもう突進はできなくなる。」
「「おう!!」」
「ナターレ、お前も転んでないで早く起きろ。」
「・・・・・・。」
『その心配はないぞ。』
「うるせぇ!おい、ナターレ!早く・・・え?」
『もう、終わったからの。』
そこには血溜まりがあり、ナターレの腹が空いていた。
「な、ナターレ!!?」
『我の能力は【貫通】。我に防御は効かないと思え。』
「カフッ。ご、ごめんなさい。」
「「「ナターレ!!」」」
『安心しろ。急所は外しておる。
「・・・撤退だ。」
「り、リーダー!こいつの言ってることを信じるのか!?」
「撤退だと言っている!!」
「う、」
「あの魔物の言ってることは本当だよ。クルメル。綺麗に内蔵を避けてるね。」
「だ、だけどよ。」
「お前は博打で手に入るか分からない大金と、仲間の命。どっちが大事だ?」
「クソっ!ナターレ、今助けるからな!!」
『賢明な判断だ。我と戦っていたら全員死んでおるからな。』
「待ってろよ!鹿やろう!絶対にこの仇は取ってやる!!」
そうして、彼女の前から四人の冒険者は消える。
『全く、人の子は野蛮で困る。我が真に認められる人間など、やはり、ここにしかいないか。』
彼女はそこで一度眠りにつく。
二度と彼らが自身の前に現れないことを願って。
ダイヤモンドホーンに見逃された冒険者たちは、現在ある村の一軒家にいた。
「リーダー、俺はぜってぇあの魔物をぶっ倒す。だから、もう一度あの魔物に会った時、俺に倒させてくれねぇか。ナターレの仇を打つために。」
「そういやお前はナターレのことが好きだったか?だが、悪いが俺はパーティーメンバーを死地に出向くような事なんてしねぇよ。」
「強くなる。今よりもっと。」
「無理だな。たとえお前が今よりも強くなったことで、あの魔物は絶対に倒せない。
それに、俺たちはあの魔物に救われた。もし、あのダイヤモンドホーンが本気で俺たちを殺しに来ていたら、確実に俺たちは今ごろあの場で死んでいただろう。」
「なんでそんなことが言えるんだ!?リーダーがいるこのパーティーの力なら、次にあいつと会った時、負けることなんてない!!」
「無理だよ、クルメル。あれは人間が戦っては行けない相手だ。」
「ミラトス!お前もリーダーと同じ考えなのか!?リーダーもミラトスもおかしい!仲間が、ナターレが重傷を負ったんだぞ!もうあれだと冒険者をもう一度続けることなんてできない。」
「良かったじゃないか。キミとナターレはアレだろ?ちょうどいい。キミが彼女を養えばいい。」
「ミラトスてめぇ!!」
「やめろ!!クルメル。お前は一度休め。ミラトス、あまり臭い芝居はやめろ。お前が背負うことじゃない。全ては俺の責任だ。」
「り、リーダー。」
その時、部屋のドアが叩かれ、女性が入ってくる。
「あんたたちの仲間の目が覚めたよ!」
「ほ、本当か!?」
「嘘をつく必要がどこにあるんだい?あんたたちの持っていた回復薬のおかげだろうね。」
「ナターレ」
クルメルは部屋を出てナターレの元へ向かう。
「あんたたちは行かなくていいのかい?」
「僕たちは今から話があるので。」
「そうかい。あんたたちも不幸だったね。今日は泊まってきな。」
「ありがとうございます。」
再びドアが閉められる。そして、部屋に静寂が訪れる。そして、その静寂を破ったのは一つの疑問だった。
「あの魔物は何なんだ。」
「分かりません。ダイヤモンドホーンであることは確かでしょうが。」
「いや、ダイヤモンドホーンは仮にもA級でも、特別討伐指定指定の魔物だが、あそこまで強いなんて話は聞かない。」
「それては・・・考えたくもありませんが変異種でしょうか。ダイヤモンドホーンの変異種。恐らくA+級はありそうですが。」
「いや、変異種でもないだろう。だが、あの魔物ははっきり言った。『我の能力は【貫通】。我に防御は効かないと思え。』と。恩恵持ちの魔物だと、考えられるのは一つしかない。」
「・・・魔王ですか。そうなるとA級どころの話では無くなってきますね。」
「あぁ。俺たちが生きてるのは本当に奇跡だろう。」
「そうですね。温厚とは聞いていましたが、それだけが救いと言うところでしょうか。」
「クルメルは。」
「恐らく分かっていないでしょう。ですが、今回でナターレが生きていたのは本当に良かった。守るものが二人できましたから。」
「二人?ナターレだけじゃないのか?」
「ナターレ、妊娠してるそうなんですよ。」
「何!!?クルメルとの子か!子は大丈夫なのか!?」
「リーダーが回復薬をすぐにかけたおかげと、あの魔物が急所を外したおかげで何とか。
私もこの家の家主さんに聞いたのが初めてです。」
「そうか。なら、心配はいらないな。」
本当に良かったとリーダー、ダンリルは心のそこで思った。そして、二度とあの魔物に出会わないことを願うのだった。
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