第7話〜お兄ちゃんの誕生日その2〜
僕がミディと別れたあと、買い忘れていた野菜を購入しに来ていた。
『マスターは色々と抜けてますよね。』
何がだよ。
『全部です。』
ひどくない!!
おっと、野菜をおとしてしまった。
まったく。ナビが思春期に入ってしまってマスターは辛いよ。
『私に思春期など存在しません。それよりマスター。落としたものはしっかり買いましょうね。』
分かってるよもう。土がついちゃったみたいだしね。
「おじちゃん、ここの芋三個ちょうだい。」
「あいよ。幼いのにえらいな。一個おまけだよ。」
「ありがとう、おじちゃん!」
ナビとは違って優しいなおじちゃんは。
『む・・・。では、マスターのために優し〜く、あることを教えてあげましょう。』
ん?な、何だよ。
『マスターはあることを忘れています。ヒントは約束の時間です。』
約束の時間?僕忘れてる事なんてあったっけ。
『マスターはミディさんの件で忘れていることがございます。』
ミディ?ミディの前に何か・・・あぁぁ!!魚か!
『私は優しいでしょ?』
うっ、まぁ僕が忘れてただけ出し。
『あと三分。』
やばァーー!!
僕は急いで魚屋さんのところに向かった。
「よく来たな。時間ぴったりだが、・・・なんでそんな疲れてんだ?」
「色々とゴタゴタで忘れてまして。急いできました。」
「そうか。取り敢えず注文の通り、捌いておいたぞ。」
僕の前には、買った魚が綺麗に解体されて並んでいた。新鮮なのか、トロが輝いて見える。
「美味しそうですね。今日は海鮮丼かな。」
「おう、兄ちゃん!その年で料理を作れんのか!こりゃびっくりだぜ!」
「父と母が商人で、よく自分が作ったりしてたんです。そしたら得意になってたんですよ。」
「こりゃ、兄ちゃんの父ちゃん母ちゃんも嬉しいだろうな!よくできた息子をもってよ!」
「そうですか?」
「あたぼうよ!俺の息子って言ったら兄ちゃんみたいにできてねぇぜ?」
「ははは。子供は遊ぶのが仕事ですよ。そんな元気な姿を見るのが、嬉しいんじゃないですか。」
妹の元気な姿を見るのが僕の生きる活力だしね。
「お前本当に子供か?エルフ様じゃねぇよな。」
「エルフ様だったら、耳が長いでしょう?僕は正真正銘10歳児です。」
まぁ、精神的には前世の記憶もあってもう少しあるけど。
「ガハハハハハ!いや〜すまねぇ。おもしれぇ話を聞けた。これはサービスだ。」
そう言っておっちゃんは氷水からさんまのような魚を
出して僕に投げ渡す。
「持ってけ!どうせ商人の子供ならアイテム袋持ってんだろ?」
「あはは。そうですね、ありがとうございます。また来ますね。」
「おう!また来な。」
そう言って僕は三匹の魚をしまい、外へ出た。
『気持ちの良い方でしたね。』
「うん。また、王都で魚を買う時は寄らせてもらうよ。」
そうして僕は少し早いけど家に帰ることにした。
「あれ?マリアルー?コハルー?」
湖に着いた僕は、まず、妹がいないことに気づく。
「ナビ、妹がどこにいるか教えて。」
『どうやら家の中にいるみたいですよ?それにーーマスター。先に今日の討伐依頼のゴブリン10匹を討伐しに行きませんか?』
「ん?ナビが提案するのは珍しいね。」
確かに僕は実は今日、冒険者ギルドの依頼表で、ゴブリン10匹を討伐して、証拠として耳を献上するという依頼が気になっていた。
それは、この依頼が冒険者ランクが上がる依頼だったからだ。
「確かに早く帰ってくることになっちゃったし、明日やるのも面倒だからいいね。」
『はい。ちょうど今、ここから北へ2キロ先に、ゴブリンの群れが移動しています。数も17体ですので余裕かと。』
「分かった。妹に会うのが遅くなるのは少し辛いけど、しょうがないよね。よし、ナビ場所を教えて。」
『分かりました。(妹様方あとは頼みますよ。)』
「ん?なんか今妹って、」
『なんでもございません。それよりマスター、群れが逃げてしまいます。急ぎましょう。』
「うん、分かった。」
そう言って僕は一度着いた家から離れて、ゴブリンを討伐しに行った。
「あ、危なかったね。コハル。」
「うん、危なかった〜。」
妹が僕のためにサプライズの準備をしていることは、僕はまだ知らなかった。
僕が帰ってきたのはそれから一時間くらい経ったあとだ。
「もう、ナビが17体って言うから行ったのに、倍はいたじゃないか!まだ気にしてたの。」
『そうですね。私はねんちゃくきしつですので。』
うっ。それも聞いてたのか。これはいつかはナビのために何かしてあげないといけないかな。
『それよりマスター、家に入る時はノックをしてください。』
「え?なんで?」
『入ってから分かります。』
「わかったよ。」
普段のナビなら何かしら意味があるってことは分かるんだけど、今日のナビを信じられるかと言われたら少し怖い。何?僕これから死ぬ?
『まぁある意味マスターは死にますね。』
「や、やっぱりそうじゃん!!」
『ですが大丈夫です。マスターにはこれから幸福が訪れるでしょう。』
「ねぇ、僕は今ナビが凄く怖く見えるんだけど。」
『いいから入ってください。・・・すねますよ。』
「う、うぅ。」
僕はそうして、地獄の扉をノックした。
その瞬間中からドタバタと慌ただしい音が聞こえる。
「ねぇ、やっぱ一度僕かえ、」
『準備はできているようですね。入りましょうマスター。』
「は、はい。」
僕は覚悟して扉をゆっくりと開いた。こうなったらやけだ。もう僕は怖くない!
「さぁ!何でも来い!!・・・ってあれ?マリアル、コハルどうし、」
「「お兄ちゃん!お誕生日おめでとう!!」」
「へ?え、えぇぇーーー!!!」
「いつも私たちのご飯を作ってくれてありがとう!」
「いつも私たちを守ってくれてありがとう!」
あ、あの。ナビさん?こ、これは。
『マスターのために、妹様方が用意してくれたんでしょう。』
中は地獄なんてとんでもない。僕のためにマリアルたちが用意してくれた天国だった。
普段の僕たちの家は、日本家屋だったこともあり、質素な雰囲気だったのに対して、今はそこら中に花や飾り物が施されている。
「これは二人がやったの?」
「ううん。コハルがやったよお兄ちゃん。私はお兄ちゃんにカレーを作ったんだ!」
「お兄ちゃん、気に入った?」
僕は思わず嬉しさのあまり、二人の頭を少し強く撫でる。
「もう、お兄ちゃん!」
「ごめんごめん。嬉しくてツイね。」
あぁ。確かにこれは嬉しさのあまりに死んでしまいそう。ナビの言ってたのはこれのことか。
僕は二人から手を話そうとするが、少しだけ二人の顔が嬉しそうだったのでしばらくそうやっていた。
「えへへ。」
「お兄ちゃん、もっと。」
「はい!お兄ちゃん!」
「わぁ!美味しそう。ありがとうマリアル!」
「うん!」
マリアルからのプレゼントは僕の好きなカレーだった。スプーンですくってみると、少し皮が残った人参やじゃがいもが見える。だけど、それがいかにも僕のために妹が頑張って作ってくれたようでーー
「う、うぅぅ。」
「お、お兄ちゃん!?大丈夫、辛かった?キャッ!」
僕は無言でマリアルを抱きしめる。目からは永遠と涙がいっぱい溢れてくる。
「ありがとう、ありがとう!」
「お、おにいちゃん・・・。」
『良かったですね。マスター。』
しばらく泣き止むまでそうする。
これ以上の喜びはない。僕は、二つの喜びに今浸っていた。一つはマリアルたちがこうやって僕の誕生日を祝ってくれたこと。
もう一つは・・・このカレーは、僕がこの前作ったカレーとかなり似ていたこと。
それがまるで、僕が兄として、妹の成長に目に見える貢献ができていることの喜び。
僕が確かに妹の役に立っている喜びが、僕の内から感情が溢れてしまった一番の理由。
「もう、お兄ちゃん!まだコハルからのプレゼントがあるよ!」
「こ、コハルからも!?」
「うん。でもお兄ちゃん。私は二人にプレゼントがあるんだ!」
「「へ?」」
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、いつもいっぱいありがとう!私からのプレゼント受け取ってください!」
それは大きな花束だった。それも、色んな色が混ざった、だけど綺麗な・・・まるで虹のような。
「「こ、コハルゥゥ〜。」」
その日、僕たちはみんなで笑いあった。
その笑い声は湖に響き渡って、そこにある墓まで届く。
その時、墓の前に咲いていた花が不自然に揺れたのはきっと風のせいなのだろう。
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