桜の枝に真昼の月が 2
古くは平安時代よりももっとずっと昔から、月に住む人々は生まれた子供を地球に送るのが習わしだった。
月の民と地球人が見た目だけでなく生物学的な特徴もほぼ同じなのは、その祖先が同じだかららしい。遠い昔、まだ月が今よりももっと青く美しかった時代に、月から地球に移り住んだ一族がいた。その末裔が今の地球人だという。
住んでいる環境に合わせてか、今の月の民と地球人は少しだけ異なる種族になってしまった。けれど先祖が同じだけに、ぱっと見ただけでは区別もつかない。
月の民が生まれた子供を地球に送るのは、今の月の環境が子供には向いていないからだ。
地表の大気を失った月で、人々は地下深くに町を作り暮らしている。大人になって身体が出来上がれば人工太陽でも問題なく生きていけるが、子供の頃はやはり自然光のもとで育った方がいいと考えられた。そのため、月で生まれた子供たちは伝手を頼って地球で育てられている。
京子もまたそんな子供の一人だった。
子供の京子を成人まで育ててくれたのは、長いこと地球に住んでいる月の民の一人で、今はもう月に帰ってしまった。京子が今よりもまだずっと若くて……。そう、あれは二十二歳になった時だっただろうか。その頃京子にも月から迎えが来ることになった。
本当ならば月へ帰るはずだったのに、京子は地球で恋をしてしまう。
好きになったのは同級生の雄介さん。彼もまた京子のことを好きになってくれた。
古式ゆかしいしきたりに則って、京子は彼にお願いをひとつ。
「雄介さんが好きなの。私と結婚したいなら、月の石を持ってきて」
照れたり焦ったりしながら彼が探して京子にプレゼントしたのは、バイトしたお金で買った小さなムーンストーンのペンダントだった。
京子の願いは月の世界にある本当にただの石ころのことだったのだけれど、そういえば月の石なんて地球人には滅多に手に入らないんだった。彼がくれたムーンストーンは、ほんのりクリーム色に優しく輝いて、まるで月そのもののようだ。桜の枝の先に淡く輝いている、真昼の月のような。
ペンダントは今も京子の胸元にある。
彼の求婚を受けて、地球にとどまっているから。
月からの迎えは、京子が成人するまで育ててくれた人を乗せて帰っていった。
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