桜の枝に真昼の月が 3
テーブルの上のスマホが音を立てて震えた。
表示された名前を見て、京子が微笑む。
「久しぶりね、ママ」
「京子ちゃん、元気そうね。たまには電話しなさいよ。お父さんもお母さんも心配しているわよ」
「はあい」
育ててくれたのはママ、月にいる生みの両親はお父さんお母さんと呼んでいる。最近は地球にも月と同じタイプのスマホが普及して、こうして簡単に連絡が取れるようになったのは嬉しい。
「ところで京子ちゃん、櫻子ちゃんはもう二十歳だったわよね」
「ええ。あと一週間で二十一歳になるわよ」
「そろそろ月から迎えを送ろうと思ってるんだけど」
「もうそんなお年頃かしら……」
月の民の子供たちには、大人になると月から迎えが来る。それは京子の血を引いた子供たちも同様に。
なぜなら、どうしても避けて通れない月の民と地球人の差異があるからだった。
寿命。
月の民は地球人よりもずっと長く生きる。二十歳を過ぎた頃から徐々に老化が遅くなり、四十頃までには完全に見た目の老化が止まる。
京子も地味な顔だからか、他人から突っ込まれたことはあまりないけれど、よく見れば三十になるかならないかという若々しい姿をしていた。
「京子ちゃんもそろそろそっちじゃあ住みにくくなったんじゃないの?」
「それが……、誰も全然変だって言ってくれないのよ。私もたまにはママみたいに若すぎるとか言われてみたいのに!」
「うふふ。京子ちゃんも若くて可愛いのにねえ」
「仕方ないわ。だって私、ひいお婆ちゃん似なんだもの。時代が悪かったのよ」
京子の曾祖母もやはり地球で育っていた。当時は美人で有名だったらしい。御伽噺に名が残ってるくらいだから。
曾祖母の名は
今もまだ月の世界で元気に暮らしている。
曾祖母に似ている京子が絶世の美女とは言われないのは、まあ、仕方ない。そのおかげで今も地味に平和に暮らしていけているのだから。
「それに最近は年をとっても若造りな人がすごく多いもの。美魔女っていうのよ」
「魔女が迫害されない世の中になるとはねえ……」
「だから私も当分こっちにいるわ。雄介さんもそうしろって言ってくれるから」
「そう。京子ちゃんが虐められてないならいいんだけど」
スマホの向こうで京子と同じくらいにしか見えない綺麗な女性が、大げさに肩をすくめてから笑った。
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