4 エピローグ

 家に帰ると、玄関の前で母さまが待っている。窓の明かりに照らされて一瞬心配そうな顔が見えた。

 送ってくれた人は母さまに頭を下げると、手を振って隣村へと帰る。そしてもう一度母さまを振り返ったら、もういつもの不機嫌そうな顔。


「ティナ、早くご飯を食べないと。もうすっかり暗くなってしまったわよ」

「はい、母さま」

「お見合いの話だけれど、次の休みの日でいいわね」


 母さまの言葉に、思わず後ろを振り返る。

 彼は背が高いから、ここからでもまだちゃんと見える。


「あの人ならティナもずっと気になってたみたいだし、真面目に仕事をする人のようだから」


 母さまは、気がついていたの……。

 私の前ではいつも苦い顔をしてるけど、もしかしたらそれはただ単に困っている顔なのかもしれない。十五になって突然家に帰ってきた義理の娘に、どう接していいか分からなかったのかもしれない。


「ティナももう二十歳なんだから」

「はい、母さま」


 お見合い、どの服を着て行こうかな。

 急に恥ずかしくなって下を向くと、手に持っていた赤い花が目に入る。


「母さま、これを」


 私から花を受け取った母さまは、ちょっとだけ頬を緩めて、すぐにまた不機嫌そうに家に入っていった。

 けれど赤い花は丁寧に飾られ、そして食卓にはいつものように美味しいご飯が乗せられるのだ。




 ――了――

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