第3話 精巧な不具合

「やぁ。」

「キュトミスか、どうした?」

「コーヒーが切れてしまってね。

しっかり外も観れたから、展望台を降りたのさ」

コーヒーをいれて無くなるまでの間しか仕事をしない怠惰っぷり。しかしその間でこなせるのだから出来ない訳じゃない、だが褒めたくはない。

「君こそ珍しいじゃないか、研究室は放っといていいのか?」

「今は殆どやる事ないさ。それより、何か見えたかな?」


「..君は本当に結果が好きだね。」

「何度も過程を邪魔されるからかな」

結果に急ぐ性分を、環境につくられた形に近い。

「何体かいるようだけどきっと皆事切れてる、ただの鉄屑だよ。」

「使えそうなのは?」

「落ちているヤツは一つも。

だけどおかしな事もある、一つな」

「何があった?」

腕力は無く勤勉でも無い、しかし凄まじく視力が良い。彼は唯一のサーチ班

世界を見渡しスクラップ寸前の半人ロボを捜して捉える。

「とあるポイントに集中して活き活きしたロボ達が動き続けている」

「自由に動いて行動しているのか?」

「少なくともスクラップ寸前よりは」

「しぶとい生き残りだろうか。」

「..もしくは、別の場所に基地を持って行動しているか」

「そんな事があるのか..?」

「あくまでも憶測なので、鵜呑みにする事は決して無いとは思うが。」

「そうだね、でも凄く重要な情報だ。

是非参考にさせてもらおう」

収穫を与え、仕事をしたと満足げにコーヒーカップの底を見つめ口を緩める

「ちなみにその〝とあるポイント〟とは何処なのかな?」

「確か、草原地帯の...」

「!?」

測ったかのようなタイミング、未知の存在が隊列に正に近付こうとしていた

「大変だ..!」

「まさかあの子達草原に?」

「草原のどの辺に居たかわかるか!」

「さっき中部くらいだったから、今はもう入り口まで来てるんじゃないか」

「ピンポイントだ..」

通常であれば、呼応機能で連絡を取れるが基地の者共は非常に稀だ。

〝誰一人同じ型がいない〟のだ。

「希少なものが残り続けたものだね」

「..希少だから、残ったのだよ」


警報に気付かず進むと、穴に落ちる。

「こんな見晴らしの良い草っ原にネジなんか落ちてるか、なぁ新人?」

「……」「ダメだコイツ喋らねぇ。」

元来の性格が大人しいのか、頑なに口を閉ざして話さない。

「アナタが喋り過ぎなのよ」

「一言しか話してねぇだろが!」

「音量が大きいのは口数が多いのと一緒なの。」

質より量は人を選ぶという事だ。

「けっ!何でオレが怒られんだよ!」

「どうでもいいけど前見ろよ女。」

「アナタも女でしょ」

「いいから見ろって、前だよ前っ!」

「なんなの...。」

「よぉ、若いもん達!」「!?」

黒いコートを見に纏う、5人の男達が行手を阻み怪しく佇む。

「なんだテメェら?」

「うおぉ威勢がイイねぇ!

嫌いじゃないぜそういうヤツ!」

「ホ、ホントか...⁉︎」

「何喜んでるのよ。」「あぁ悪りぃ」

「お前ら半人だよな?」

「だったらなんだってんだよ」

「俺たちと来ねぇか?」

「おれたちは半人を理解した機械。」

「エニグマ勝手に喋んな!」

「どういう事か説明して、半人を受け入れたって?」


「そのままの意味だ、改造手術なんてやめて中途半端で生きてくって事だ」

「はぁ?

こいつイカレてんのかよ!?」

人の部分が残っていれば、色々な思想の者がいる。徒党を組んだ黒コート達は〝完全体にならず半端に生きる〟という結論に落ち着いたらしい。

「で、どうすんだ?

一緒に来るか、こねぇのか!?」

「行く訳ないだろ、普通..。」

「……」

「お前が意見するのかよ。」

限りなく人に近い者が一番の反発を見せた。やはりコートが気になったのだろうか。

「なら壊してくしかねぇな!

ぶっ放しちまいな、ブラスター!」


「指図しないでくれるか?」

右手首をガトリング砲に変え銃弾を乱れ撃つ。一見疎らに散るように放っているように見えるが、実はターゲットを絞ってピンポイントを狙っている。

「ぐおっ...」「ギャルゴ!」

「いよっしゃ当たり〜!

一つはガラクタ決定だなぁ?」

「いい気になんなよ..?」

ワープし眼前に出現した拳が振り被り音を立てる。しかし掌があたったのは柔らかな頬では無く、黒光りした固い金属だった。

「てめぇ!」

「接近戦では撃てないと思ったか?」

ガトリング砲の腹で拳を防ぎ、腕を弾けば自然と距離が出来る。

「近くの方が威力は高い」「くっ!」

一斉射撃が拳を伸ばした同じ距離から

降り注ぐ。


「……。」「お前!」

ミニッツが間へ滑り込み、我が身で全ての弾を受け止める。

「……!」「バカな..受けに来たのか」

「何やってんだテメェッ‼︎」

「二人目。」

蜂の巣と呼ばれる絵に描いた姿へ変貌し、床へ落ちる。

「ちぃっ!」

すぐさま拾いワープし下がり、リーダーに指示を煽る。

「どうすんだよ?」

「都合良いわね、まぁいいわ。

基地で拾ったおもちゃで逃げるわよ」

「うおっ、なんだコレェ!?」

摘んでいる妙に煌めいた輪っかを投げると大きな縄になり、黒コート達を縛り上げ吹き飛ばした。

「よし!」

「なんであんな便利なもん基地に落ちてんだよ?」

提督の開発途中の試作品が誤って落ちてしまっていたようだ。

「さぁ、行くわよ」

「戻るんじゃねぇのかよ?」

「何言ってるの、疎らになったなら次会っても個人戦になるんだから勝てるじゃない」

「..お前がリーダーになった理由ワケがわかった気がするぜ。」

急遽体制を変更、列を分解し幾つかの塊へ。

「ワタシは個人、アナタは新人くんを連れて上へ進んで頂戴。あとは...」

銃弾をかなり受けたギャルゴと問題児の野性女。

「二人はどうするー?」

「アタシはここに残ってやるよ!

こいつ一人じゃ廃棄になるからな!」

「あそ、それじゃ頼むわね。」

「簡単だなオイ」

二人を残し草原の奥地へ。

目的はネジを見つける事と、野鼠を狩る事。


「ふぅ..おい!

行っちまったぞ、生きてんだろ。」

「痛った..ヤバかった、本当ホント危なかった」

「頼むからそれやめてくれよ、アタシが下手に仲良いと思われるだろよ!」

「大丈夫だよ、ほら見てみ?

まだまだカウント余ってるから..。」

コートをめくった胸の中心に大きな赤色で〝35〟の電子文字、くらったダメージのヒット数を表しているようだ。

「あの男派手に撃っても35発が限界らしい、身なりだけのヤツ。」

「最大で100までくらえるんだっけ?

くっだらねぇギミック仕込んでんな」

飽きられるのも無理は無い。

しかしロボのギミックは運的な要素があり極端なアタリハズレがランダムで付与される仕様なので選びようが無い

「どんくらいで癒えんだよ?」

「35分。」「はぁ!?」

受けた数がそのまま分数ふんすうになる。レトロかつ不便なカラクリだ


「隠れてて良かったぜ..。」

「なんかいるぞ」

「え、あホントだ。なにもんだお前」

黒コートを持て余してきる背の低い子供のような出で立ちの何かが、怪しく笑って身体をふるわせている。

「気がつかなかったのか?

途中から4人に減ってたんだぞ、オイは隅で隠れてたんだぞ。」

「ちゃんと喋れクソガキ」

「ガキじゃないんだぞ!

お前こそ口の悪い女だぞ!」

「あ?」「なんだぞぉ?」

両者バチバチの好戦的な態度で望む。

「文句があるならかかってこいぞ!」

「いいんだな?

ソチラさんの宣戦布告と取るぞコラ」

「なぁーんか面倒なの始まるぞー。」

ゴングは既に鳴り終えた。

会場は草原、プレイヤーは半人半機械

やさぐれハイエナと隠れ小僧の一戦。

「どうにか35分持たせてくれよー?」

「バカ言ってんな、2分で終ぇだ!」

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