第2話 探索の庭

「お早う」

基地の朝は朝礼から始まる。

横の列に並び、点呼を取って少し話をするという学校じみたものだ。

「ガイザ」「はいよ。」

「レミー」「いい朝ね。」

「リントン」「少し、眠いよ。」

「ライラス」「おはようございます」

探索班と補助班が二人ずつ挨拶。


「ロイタナとギャルゴはどこだ?」

「また寝てるんじゃない?」

「起きてきた事あったかよ。」

「参ったな。

今日は重要な事があったのに..」

「私が後で伝えておきましょうか?」

「いいわよライラス

どうせ聞かないわ、無駄な事よ。」

「みんな手を焼いてるね..」

貴重な探索班なのだがクセが強く、人のいう事を聞くようなタイプでは無い加えて協調性も無く捻くれている為余り組みたがらない者が多い。

「せめて性格が良ければいいのにね」

「あれ?

そういやあの豆狂いいねぇな、何処行きやがった。」

「カフェインがお腹で爆発して消えて無くなったのかしら?」

「すごい事言うね。

そんなに嫌いなの、あの人のこと」

「キュトミスならもう出ているよ

早めに動くよう指示させて貰った。」

「..まぁ仕方ないわね」

「奴は少し〝特殊〟だからな。」

探索よりも動きは少なく、補助よりも手間が掛かる。しかしそれは多分に、彼の〝しょう〟に合っている。


「それで重要な事って何

また遠征のお願いだったら嫌よ?」

「あ、そうだった。

君たちに報告があってね」

「なんだよ?」「勿体ぶるね..」

「なんだろ、楽しい事かな。」

「この基地に新しく人が入るんだ」

「新しい人?

そういえば一度誰かを拾ってたわね」

「そ、お願いできるかな?」

白衣の男が、四角い電子版を小脇に抱え居間へ近付く。

「ササキか。

表へ出てくるなんて珍しいな」

「助手さん、お久し振りです。」


「ライラスちゃんか、お早う。

相変わらず君は礼儀が正しいね」

「オレには挨拶無しか、スケコマシ」

「君の事は嫌いだ、ガイザ君。」

「けっ!だとよネジ小僧」

「知らないよそんな事..。」

パーツの管理などが主なリントンは助手のササキと会う事が多々ある為何も珍しくない。当然挨拶も交わしている

「で、新しいお友達はまだ?」

「今出すよ、それ。」

電子版の画面を指で弾き数秒後、居間に人型のシルエットが転送される。

「草原地帯の入り口で気を失っていた

名前はデータを見るにミニッツだ。」

「..そうやって床に寝てたのか?」

「待ってくれ、確かにローディングには難がある。」

説明している間もずっと突っ伏して動かなかった、元々そういう謙虚な仕様なのかもしれない。

「では私はこれで」「終わりかよ」

出来損ないのカラクリを置いてそそくさとフェードアウト、内へ篭る。

「行ってしまわれましたね..。」

「本当にただの報告ってだけだわ。」

やはり表は向いてないと察したのか、帰るときの足取りは素早かった。


「さて、その上でなんだけど。

今日は探索班に、草原地帯へ出てほしいんだ。」

「草原地帯に?

でもあそこには何も無いんじゃ..」

「広大で変哲が無いように見えるからそう伝えていたけど、本当はずっと気にはなっていた。..それに、ミニッツの事もあるしね」

「上手いこと口実に乗せて、棚ぼたまで貰おうって魂胆か。」

「捻くれた事を言うなよ..」

卑しい箇所をやむを得ずという現象にスライドさせる事でイメージ保護をする、偉い奴の悪質な遣り口。

「リーダーはレミー、君に任せる。

隊列を組んで進んでくれ。」

「人数は多いほうが?」

「そうだな、草原は広大だ。

ロイタナとギャルゴも起こして連れていってくれ、それもミニッツも」


「新人くんを連れていくの?」

目を丸くして驚いた。

そもそも探索班だとも思わなかった。

「慣らしておく必要があるからね。

欠けてる記憶も戻るかもしれないし」

正確にはデータが破損してなおらない箇所がある。倒れていた場所を辿れば断片が拾えるかも。

結局は棚ぼた先行の発想だ。


「ふぅ、美味なりやはり。」

基地で一際高く目立つ高台があり、聳えて剥き出しの中コーヒーを嗜むキザな変態が一人。

「風が少ないと、コーヒーの滴が滑らかに落ちる。優雅なものだ」

学校の屋上のような、一本の柱の先端にて寛ぎ下界を煽ぐ。

「へぇ、なかなかいいぞ。

久し振りに興味をそそられるよ」

彼の〝視界〟は多くを捉える。


草原エリア入り口

「ここら付近で寝てたのか?」

「……」「喋らねぇっ!」

「点呼取るから並んでくれるかしら」

「けっ!

リーダーさまさまだな!」

隊列を組むべく人数を確認する。

「先ずはゴリラ」「名を呼べよ」

「続けて新入りのミニッツくん?」

「……」返事は無い。

「あとは...いいわね」「おーいおい」

「アタシを無視すんのかぁ⁉︎」

「見つかったわ、暴君に。」

ピンクの髪に鋭い目付き、無駄に足が長い事から〝狂乱の兎〟と呼ばれているがそんなものではなく実体は単なるガラの悪いヤンキーである。

「ロイタナ...。」

「名前知ってたのかよお前、ヒハ!」

「はぁ..最後がギャルゴね。」

「ども。」

ロングコートに身を包む人の要素が強い男、機械の部分が恥ずかしく隠しているそうだがそもそも誰も気にしていない。一丁前にファーが付いている。

「これから列で行動するから、乱さないようにお願いするわ」

「はぁ?列ってなんだよ?

動く自由まで奪われんのかよ!?」

「初めからそんなもの無いわよ。

提督が言ったんだから従いなさい」

「あんなジジイの言う事真に受けんのか、どこまでガラクタなんだよ!」

「言う程ジジイか?

見た目若けぇと思うけど。」


「ジジくせぇって言ってんだよ

脳筋じゃ区別もつかねぇだろうな!」

「んだとテメェ?」「あんだよ?」

勝ち気と性悪、みずと油というよりは油に直接火を投げているようなもの。

「なんでワタシがリーダーなのかと思ったけど、イザコザが面倒で押し付けたのね..。」

「やっぱ集団行動嫌だな。

時間の無駄...」

「あそこにも一人いるわね、問題児」

とぼやくレミーも疑問はあった。

広くて大きい草原で、何故纏まって動くのか。

「疎らな方が効率良いのに」

目上の人の言う事は結構間違いが多い提督といえどそれは同じ。

かといって完全な単独行動としても帰還する者が減るので知らないフリをしておいた。

「多少乱れてもいいから絶対着いてくるように」

「面倒臭くなったな?」

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