ハーフギアDAY's

アリエッティ

第1話 スクラップ・ワールド

〝やられちまった〟

皆がそう言った、あの日の出来事。

「何個拾った?」

「...2個。」「そんなもんかよ?」

荒廃した砂漠を歩き、拾ったネジをしっかりと握る。

「基地まで持ちそうか?」

「大丈夫だけど、着くまで時間が掛かるわね」

「んな事ァわかってるよ。」

AI、つまりロボットが多く普及され世に蔓延り、息をしていた人々は肉体を捨て鋼に移し換えるようになった。


「まったく..困りもんだぜ」

「今更?」

否定する者もいたが、身体の機械化は

国で正式に定めらるようになり、機械改造手術により、世界から人々が消えていくことになる。


しかしここで〝やらかした〟。

機械化の済んだ新規のロボが、誤って己の起爆スイッチを押したのだ。

「あれは酷かった」

周囲は爆撃に呑まれ、電子呼応機能により既にある同じ型のロボの起爆スイッチが連続で押された。爆破の規模は更に増し世界全体に被害を及ぼした。

「本当に集めて出来るのかしらね」

「技術はあるんだ、部品が足りない」

現在の基地は当時の改造ラボであり、

外壁が通常より硬く設計されていた為中の者は被害を然程受けずに済んだ。


しかし手術途中だった為、改造を施す技術者以外は半分人のまま。

最後の爆破で外壁を壊し、部品を吹き飛ばした。

「持て余して腕が鈍る前に治してもらわねぇと、俺達はずっとカエルだ。」

「両生類って事ね、笑えない」

世界を歩いて探ってみると、落ちているのはネジばかりなので必要なのはネジだと判断した。技術者も、回路はあるので足りないのはネジだと言っている。故に疑う事なくネジを集め続けているが、油断はできない。

カエルの子はカエルというが、カエルの子はおたまじゃくしなのだ。


「着いたぞ。」

「うそ、なんで。早くない?」

「ワープ機能だ

隠れて使ってたんだよ」

「数少ないロボの部分をそんな事に使うなんて、悲しいわ。」

「半分だっってんだろ、腕力も硬さも機械だよ!」

昔は怪しい実験やオペを繰り返す白が基調のラボだったのが、今や古ぼけ煤けた基地になっている。皮肉なのはドアや機材、セキュリティは当時のままだと言う事だ。

「玄関先で喧嘩とは、仲が良いのか悪いのか。ともかくご苦労様」

「良かったことなんか無ぇだろ!」

「殴っても痛いしね」

「ネジは幾つ見つかったかな?」

「...2個だ。」

「有難う、充分だ。

ゆっくり集めていこう」

「お前が基地に無駄に使うから足りなくなるんだろ。」

「..敢えて文句を云わなかったのに、素直だね君は」

「都合良く人が残ってるのよ。」

自我を消す為の手術なのだが消えずに残っている、わかりやすい失敗だ。

「技術者を困らせないでくれよ?」

大広間のモニター室を居間として、患者の病室であった部屋を各々が寝床としている。


「ほれ、はしたネジだ。」

「はした金みたいにいわないでよ、みんな貴重なネジなんだから」

「うるせぇな、半人エンジニア」

「どっちの意味でいってるのそれ?」

「どっちもだよ!

寝るから部屋に入んなよ?」

「..入ったこと、無いだろ一回も。」

基地内で、ネジの管理をやらされる少年。実際のところ年齢は詳しく分かりにくいが背が低く、大人しいので子供っぽいとそうしてある。

「変わろうか?」

「いいよ、数えるだけだから。」

同じく基地内でシステム管理や補助をやらされる少女が良く様子を見に来てくれる。彼女も同様の理由で少女ということにされている。

「無理しないでね!」

「だから数えるだけだって..。」

声を掛けると直ぐに居なくなる。恐ら寂しいだけなのだと思う。

「入ったな?

一旦扉を閉めるぞ。」

基地に全員がいることを確認すると、入り口をロックする。突発的な被害に備え、セキュリティ以上に警戒をする為だ。


「砂漠地帯は異常無し、なさ過ぎて資源も見つからない程よ。」

モニターをパチパチと叩いて情報を打ち込む。調査報告とまでいかなくとも適度な記録をしているつもりだ。

「指が痛い..疲労が邪魔ね、本当に半分も機械なのかしら?」

線が細く、華奢な為機械が埋め込まれているかがいまいち疑わしいようだ。

「服は鎧みたいだけど、これってそもそも服というの?」

実際のところ性能は皆ほぼ人、機械としてのギミックが一つか二つある程度で後は昔とほぼ変わらない部分が多い


「仕事か?」

「見ればわかるでしょ。」

「大変だな、はっは!」

「あなたがラクしてるのよ。」

どこかで拾った丸テーブルを置きシャレた椅子に座りながらキザ男がコーヒーを飲む。盛大に格好付けているが唯サボっているだけの怠け者だ。

「オイルブレンドのほろ苦テイストだ

煎れるのは少々コツがいる」

「知らないわよ、そんなこと。」

コーヒー本来の苦味とオイルのコクが癖になるらしいが、ハタからみれば単なる異物混入である。

「マトモな人はいないのかしら」

「わかっているだろいない事は。

身も中身もポンコツばっかりなのさ」

「...それもそうね。

あんまり飲むと眠れなくなるわよ?」

中毒の身を安じると、自分の部屋に戻っていった。

「珍しいな、納得してくれるなんて」

突発的な不具合だろうか?


基地内研究施設

余った乏しい材料で、取り繕うようになんとか作り上げた機関。

「彼の様子は?」

「明日にでも目覚めそうです。」

「そうか、早いな」

外へ探索に出掛けると稀にロボが生き永らえ、倒れている事がある。ここではそれを修復し、リメイクする。

基本はオイルと合成回復液を混ぜた液体を浸したポッドに漬けて時間経過で様子を見ていく。

「データはどうだった?」

「破損していたものを修復し、解析しましたが特に何も..おそらく一般的な名残のものかと。」

「彼も被害者という事だね..。」

「悲惨なものです」

基地を仕切る提督とその助手達は技術者側の人間、つまり完全な機械なので感情を残して身体全体が鋼で完成している。それ故に爆破事故には人一倍の自責の念を感じている。

「オペ中で手が離せなかったとはいえ

街で起きていた事態に気が付かないなんて、あってはならない事だ。」

「しかしあれは突発的な事故です。突然起きれば、誰でも手の施しようはありませんよ」

「...そうだね。各自時間が空き次第眠ってくれ、僕もそうする。」

人が時間経過なら、街も世界も同じ事潰れたモノを、建て直す。

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