第二部 第7章 捜索の本番当日(2)

「久しぶりね、夕」

「ええ、元気だった?」

  高校時以来、ふたりの約3年ぶりの再会となった。

  視線を合わせる事も無く、気まずい訳でも無かったが、二人の間に若干の沈黙があった。

「忙しそうね」

「あなたもね」

『氷室さりな』こと、『朴佑杏』は少し苦笑いしながら答えた。

「元気だった?なんてよそよそしい事は言わないけど、卒業後どうしてた?」

「グラビアの仕事がしたかったんだけど、中々ね。事務所にも所属したけど、うまくいかなくて。人間関係で。それで、ある仕事をきっかけでさっきの裕子の事務所に所属したの。そのお陰でグラビアのお仕事も段々増えて。今はそこそこね」

 手に持っているグラスの中の烏龍茶の氷をくるくる回しながら言う。

「そう、苦労したわね」

「あ、新聞見たわよ。芸能界辞めたの?本気?」

「本気の何も、もうとっくに辞めてるわ」

「何でよ?この状況で。不満なんて無いでしょ?」

「高校時代には言わなかったけど、わたしが芸能の道に進んだのは『ある目的』の為だけで本望じゃないのよ」

「え、そうなの?何?その目的って」

「それは今は言えないわ。あなたにもね。というか『あなたには』かな」

「どういう意味?さっぱり話が見えないわ」


壇上ではビンゴ大会が始まる様子で、スタッフらしき同窓の男が穴をあける紙をせっせと配っている。二人にも配られたが参加もせず会話は続いた。

「あなたの生徒手帳を見たことがあったわ」

  夕は唐突に切り出した。

「ええ、そう。何か書いてあった?」

 少し笑いながら佑杏は答える。

「好きな男の名前が書いてあったわ」

「うそ!?」

「冗談よ」

「やめてよ。びっくりしたじゃない」

そう言いながら夕の肩を軽く叩いた。

「それで?」

「あなたの誕生日は9月2日でしょ?」

「そうよ。それがどうかしたの?」

「私も同じなのよ」

「そうなの?それは初耳ね」

「わたしはそれを知った時、ただの偶然ではないと確信したの。生年月日が同じって事が」

「それはどういう事?」

 夕は暫く間を置いた。

「話は少し戻るけど、あなたは何故『日本の芸能界』を選んだの?韓国でも十分でしょ?」

「それは・・・」

 佑杏は言葉に詰まった。

「正直に言うと『日本の父親』を捜すためなの」

 夕は少し頷く。何かを確信した様だった。

「やっぱりね。実はわたしの『ある目的』にもその事とほぼ重なるの」

「さっき誕生日聞いたでしょ?」

「ええ」

「私たち多分『双子の姉妹』よ」

 佑杏は絶句した。

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