第二部 第6章 佑杏捜索の当日(1)

「流石は芸能コースで有名な深堀学園の方々ですね。実に賑々しい」

「俺には縁も縁もねえ」

「なんだよ、おにぎりなんとかってのは。よく分かんねぇこと言ってんじゃねぇ」

「すみません。賑々しいっていうのは賑やかだって意味ですよ」

「ほー、そうなのか」

 夕の出身校である『深堀学園』の「第一回 2007年度卒業生 同窓会」は、新宿の慶應プレイスホテル「飛翔の間」で 行われる。同窓会の開始時間は14:00からとなっていた。立食形式で、昼過ぎと言うのに豪勢な食事がずらりと並んでいるのが垣間見える。朴佑杏を見逃さないため、3人は予定より早い開始10分前には準備していた。

 卒業後初の同窓会であるせいか、各々着飾り様が半端ではない。特に女性は振り袖姿も目立ち、男性は専らスーツ姿だ。そんな中で、夕は普段着に近く逆にドレスコードに引っかかりそうな勢いでもある。

「お前らは入り口で待ってろ」

「はい、承知しました」

 会場入りの記帳をしながら二人にそう告げる。

「夕さん、余計な事かも知れませんが、《朴佑杏》に確認する事は纏めてありますか?チャンスはそうないですよ。あと、怒っても怒らせてもだめですからね」

「おっさん、今更くだらんこと言ってんじゃねぇ。そんなこと分かってる。当たり前だろうが。ほんと余計だぜ」

 声を押し殺して文句を言う。

「それなら構いません」

 そう言うと、聡志と桜田は会場である「飛翔の間」入り口付近の窓際にある、対面型のロングチェアに向かってそそくさと歩いて行った。


「ふう。世話がかかる二人だぜ、全く」

 夕はそう呟きはしたものの、内心はどきどきである。何せ身の回りの面倒な事はあの二人に丸投げで、一人で何か事に当たるのはかなり久しいからだ。

  記帳を済ませ会場入りすると、参加者の視線は一瞬にして夕に集まった。それは服装の違いからではなく「この代の出世頭」という点に於いてだった。そういう場面では得てして宝くじや競馬で大儲けすると突如現れる、見ず知らずの親戚や友人の出現に似ている。

「あら、松浜さんじゃない。お久しぶりね。私のこと覚えてる?」 

 身の丈に不釣り合いな真っ赤なドレスを纏った女性が言い寄って来た。

<けっ、知るかよ>

と言う言葉を呑み込んで、

「あら、ごめんなさい。私あんまり学校に行かなかったからほとんどの方の顔と名前が一致しないのよ」

  こんなTV向けの台詞を発する夕の振舞いを椅子に座って待機している二人が見たら恐らく噴き出している。

「そうよね、ごめんなさい。私、A組だった早乙女裕子って言うの。以後宜しくね」

 と、名刺を差し出してきた。

『Co-scer Promotion 専務 早乙女裕子』

と書いてある。

「一応、あなたと同業になるわね。だった、かしら」

「そうね」

「随分なご活躍だったわね。引退報道、拝見したわ」

「そう」

「引退の要因はやっぱり内紛問題?」

「まぁ、そんなところかしら」

「よかったらウチでやってみない?悪いようにはしないわ」

「ありがたいけど、もうその気はないの。ごめんなさいね」

「もったいないわね。貴方のような才能の持ち主は滅多にいないのに」

「私にはもったいない言葉ね」

《誰がお前のとこの世話になるか、っての》


 同窓会の進行役が壇上に登ると、ひと際目立つ背の高い美女が息を切らして会場に姿を見せた。

「ユアン、こっちよ」

 早乙女裕子は小柄な体型から短い右腕を挙げて、その長身の美女に向かって左右に振って自分の居場所を知らせる。それに呼応して長身の美女も長い右腕を左右に振る。夕は慌てて振り返った。徐々に鼓動が高まっていくのを禁じ得ない。

「あなた、知ってるでしょ?ユアンの事」

「え、ええ」

  長身の美女は人混みを掻き分け、裕子の下に駆け寄った。

「ごめんなさい、遅れたわね。仕事が押しちゃって」

「『朴佑杏』よ。今は『氷室さりな』ていう芸名で私のところで主にモデルの仕事をしてるわ」

  夕はユアンに恐縮しながら小首を縦に振った。

「久しぶりね、夕」

「ええ、元気だった?」

  ふたりは高校以来、約3年ぶりの再会となった。

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