第二部 第5章 佑杏捜索活動の本番直前
「それで、高校の同窓会はいつの予定なんですか?」
未だに前に進んでいないビートルのハンドルを掴みながら聡志は聞いた。
「明後日だ」
「え~!急すぎませんか?」
「仕方ねぇじゃねーか。俺が決めたわけじゃねぇし」
「それはそうですが、パク・ユアンも来ますよね?」
「俺としては来てもらわないと困る。最近仕事が忙しいみたいだからな。だが、多分来るはず」
「その時が勝負時ですね」
「このチャンスが最初で最後になるかもない。だから、この機会を逃すわけにはいかないんだ」
いつになく夕は真剣に話している。
「じゃぁ気合いれないとですね」
「おう。じゃぁ決起集会だな」
「何ですか?その決起集会とは」
「おい、おっさん。そろそろ言葉尻を汲めよ!決起集会と来れば何だ?」
「来れば、なんでしょう?」
「飲みに行くに決まってんだろうが!おっさん」
「あ、そうなるんですね。以降、留意します」
「固いんだよ、考え方が。だからそうなるんだろうが、おっさん!」
「その言葉尻、久しぶりに聞きました」
「だから、言葉尻の意味合いはそういうのじゃねぇつーの!頼むぜ、おっさん」
「は、はぁ」
「まぁいいさ。決起集会の集合場所はこの前の居酒屋にしよう」
「おや?さては気に入りましたね?」
「うっせぇ!いいじゃねぇか別に」
夕の語気が若干弱まった。聡志は少しにやついた。
「おい、いま笑ったろ!」
「え、わ、笑ってませんよ」
「何つっかえてんだよ!おっさん!いいじゃねぇか、別に」
「はいはい」
「飲むとなると、車運転できませんけど」
「できませんけど、じゃねぇだろ?そこを何とかするのがおっさんの仕事じゃねぇのか?」
「そうですけど。前にもお伝えしましたが、私は免許は持ってるものの、東京で運転したことが在りませんし道も皆目わかりません」
「だーかーらー、皆目~じゃねえだろう!そこを何とかしろ!おっさん!」
流石の夕もキレ気味である。すると、前方に数人の警官に取り囲まれている人だかり見受けれられた。その中にJKらしき人物もいるようだ。
「だから、俺は何もしてねぇって言ってんだろうが!このガキがスマホ落したから拾ってやっただけだろうが!」
「あれ?聞き覚えのある声ですね」
「あちゃ~マジか!またあいつだ」
思わず頭を抱える夕。
「桜田さんですね。あの方は何か強いものをお持ちですね」
「単なるトラブルメーカーだろうが!ったく」
二人は車を降りてその人だかりへと向かった。
「このお嬢さん、泣いてるじゃないか。何をしたんだ!」
「だから、俺は何もしてねぇって言ってんだろうが!このガキがスマホ落したから親切心で拾ってやっただけだろうが!」
「おい、さっきと同じこと言ったぞ、こいつ」
警官の一人がにやけてぼそっと呟いた。
「おいおい、それは聞き捨てならんな。侮辱罪で訴えてやろうか、そこのポリス」
「何を?貴様こそ公務執行妨害にしてやろうか!」
「人を貴様呼ばわりするんじゃねぇよ。いち公務員が!あれ?あ、夕さん」
桜田は振りきざま2人に気づいた。
「あ、じゃねぇんだよ。頼むぜ、いい加減」
夕も面倒が見切れないと、ほとほと困った様子であった。
「いいじゃないですか、夕さん。桜田さんはとてもいい人ですよ」
「で、どうした?今度は」
「いやぁ、このガキがすれ違いざまにスマホを落としたんで拾って渡したら急に泣き出したんですよ」
夕は何も言わず、腕組みしながら二回首を縦に振る。
「おまえ、自分が《いかつい》って事を自覚してんのか?JKくらいだったら、そりゃお前見たらビビるわ」
「はぁ、まぁ」
「まぁ、じゃねぇだろ!桜田。わかった!今、車が動かなくて困ってるからお前運転しろ」
「え、だって俺クビでしょ?」
「もう芸能界はきっぱりやめたし、お前の処遇を考え直した」
「本当ですか!喜んで運転します!お巡りさん、大変ご迷惑お掛けしました」
「今後は、き、気を付けるように」
警官たちは桜田の豹変ぶりに度肝を抜かれた
桜田は深々一礼すると、
「では、早速車に戻りましょう!」
と大声で言い放った。桜田はすでに意気込んでいる。若干興奮しているようだ。方やJKと警官はその桜田をなだめていたのが日本の歌姫だった?松浜夕であることに全く気づいていなかった。
「で、どちらへ行きますか?」
「おまえ、何急にイニシアティブとってんだ?」
凹んだビートルの運転席が懐かしいのか、ハンドルを握る桜田のテンションは上がっていた。
「まぁ、いいじゃないですか。私は車の運転が苦手なので助かります」
「ふ~む、この先どうなることやら」
夕は首を横に振りながら問題児?二人と黄色い凹んだビートルは動き始めた。
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