第二部 第2章 Re Start
早朝にもかかわらず、『キャピタル東京』の前には、聡志との熱愛?を報じた「フライアウト」の記事の反響からか、結構な報道陣が待ち構えていた。
「なんだよ、朝っぱらから」
朝日を遮ろうと、眉の辺りを右手で視界を覆いながら呟く。容赦ないシャッター音が二人の耳に否応なしに入ってくる。多くの報道陣に囲まれマイクを向けられた。
「松浜さん、今回の熱愛報道についてですがどういう経緯で?」
「熱愛報道?どういう経緯で?それを調べるのがあんたらの仕事だろ?違うか?」
質問した女性記者は黙り込んだ。 すると、夕は徐に
「皆さんにお伝えしたい事が在ります。私、松浜夕は今この瞬間を持ちまして芸能界を引退します。今まで支えて頂いたファンの皆さん、関係者の皆様等々に於かれましては、こんな私の為にご尽力いたきまして、感謝の気持ちしかありません。理由等、諸々につきましては、後日機会を設けてご報告するつもりです。今まで本当にありがとうございました」
夕は深々頭を下げた。聡志は勿論、駆け付けた報道陣の頭の上に「?」マークが付いている。全く今の状況が分かり切れていない。
「え?どういう事でしょうか?」
先程の女性記者が問い直す。
「どういう事も何も、言った通りだけど何か?おい、おっさん、行くぞ!」
聡志にそう告げると、
「あ、はい。すいません、通ります」
タクシーまでの通路を開けると、二人はそそくさと乗り込んだ。余りの突拍子の無さに皆フリーズしている。
ホテルに横付けされているタクシーに乗り込むと
「原宿まで」
と告げた。タクシーはゆっくりと青山・原宿方向へと動き出した。
「夕さん、どういう事ですか?どう考えても唐突すぎますよ。あんな形で引退宣言なんて。無茶苦茶すぎます」
「どういう事って、こういう事だよ。それ以外に何もない。それよりも乗り捨てたビートルを取りに行かねぇとだろうが」
「あ、そうでしたね。まぁ、この騒動の件については預かっておきます。今後の予定はあるんですか?」
「まぁ、今のところ未定だな」
「そうですか。夕さんがそれでいいならいいんじゃないでしょうか。私も一度死んだようなものですから、同じく再出発ですね」
「おいおい、なに俺と同じ状況にしてんだよ。レベルが違いすぎるんだよ。勘弁してくれよ、おっさん」
「あはは、そうでしたね。失礼しました。まずは、私はビートルを真面に運転出来るようになって、東京の道を運転できるようにならないとですね」
「まぁ期待はしてねぇけどな」
「できるようになりますとも。電車の事が分かるのですから理屈は似てるんじゃないかと思うので」
「運ちゃん、その辺ってどうなんだろうね?」
話をタクシー運転手に振る。
「どうでしょうかねぇ。まぁそういった部分は無い訳では無いですが、慣れですかね。あと流れでしょうかね。今はカーナビやモバイル機器が発達しているので昔より運転しやすいんじゃないんでしょうかねぇ。ですからやればできると思いますよ」
「だってよ、おっさん。よかったな。ってかどうか俺を事故で殺さないでくれよ」
「え、それは保証できかねます」
「あはは、それは傑作だな」
そんな事を言ってるうちに、タクシーは乗り捨てた黄色のビートルがあったJR原宿駅近くに停車した。
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