第二部 第1章 謎の凸凹コンビ誕生!
夕は未だに目覚めない。聡志の膝の上に腰かけて頭を聡志の胸に預けている。やっぱりそこは20歳前後の女の子だ。彼女を抱く抱かないの件は話半分であって、本気であるわけがないとは思っていたものの、正直残念な気持ちもあった。そのおかげで聡志は一睡も出来ないでいた。いつの間にか時刻は7:00前になっていた。
「夕さん、起きて下さい。朝です」
半ばヘッドロック状態のまま言ったとて、起きる訳が無い。膝を左右に揺らしてみた。そうすると「うーん」と言うものの起きはしない。 今度は膝を縦に揺らしてみた。 夕は急にがばっと起き出して辺りを見回した。
「おい、今何時だ?」
「7:00前です」
「な~んだ」
そう言うと、ふらふらしながらベッドに向かって歩き倒れこんだ。漸く聡志は夕から解放された。
「な~んだではないでしょ。スケジュール帳によると、今日は10:00から渋谷のNHTVで「ミュージッククリップ」の打ち合わせになってますよ。朝食を摂って準備しましょう」
反応が無い。寝かせててやろうと思う反面、元々、几帳面な聡志は若干ヤキモキしている。「じゃぁ30分だけ」という時間の猶予を取った。
その30分後、流石の聡志も夕を起こさねばならない。猶予は与えたのだから、と強引にベッドに寝ている夕を下に転がし落とした。
「何すんだよ!おっさん!!」
「いやぁ、悪気はないんですよ?猶予の30分が経ちましたので」
「嘘つけ、わざとだろ」
聡志は微妙ににやけている。
8:30過ぎ、 ビュッフェで朝食と支度を終えた夕と聡志はチェックアウトする。勘定は勿論夕が済ませた。少々時間を要したので、聡志はロビー備え付けの週刊誌「フライアウト」を手に取る。何気なく、ぺらぺらページを捲っていく。すると、或るページで固まった。聡志は二度見した。
「夕さん、大変です」
「はぁ?何がだ」
「これ見てくださいよ。この写真、このホテルの玄関ですよね?」
「エントランスな、で?」
夕は多少寝ぼけて記事に見入る。
「へぇ~」
「へぇ~って、そんな悠長に構えていいんですか?」
「構えるも何も事実だろ?」
「まぁそうですけど、大変ですよ!これは」
そこには『松浜夕、謎の中年ハゲおやじと高級ホテルにチェックイン!』
の記事が躍る。そこには昨日の居酒屋からの足取りが詳細が記してある。
「いいじゃねえか、そんな事はよくある記事だ。でも、『謎の中年ハゲおやじ』のネーミングにはお笑いだな」
「そこですか?私はいいですが、夕さんの影響が・・・」
「影響はなんかあんのか?」
「え?そう言われると。どうなんでしょうか、わかりません」
「分かんないならしょうがねえよな。然程影響何てないだろ。だって相手が『謎の中年ハゲおやじ』だかんな、あはは。なるようにしかならん」
「まぁ、そうですが」
「じゃぁ、原宿に行くとすっか。おっさんの凹ませたビートル取りに行かなきゃいけねぇしな」
「はい」
夕には何か吹っ切れたものが感じられた。
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